セブンDX敗戦#2Photo:Natnan Srisuwan/gettyimages

セブン&アイ・ホールディングスのデジタルトランスフォーメーション(DX)大号令による「DXバブル」に群がったのがITベンダーやコンサルティング会社だ。激しい利権争いはベンダー序列を激変させただけではない。セブン&アイのDX戦略の命運を左右する大事件をも引き起こすことになったのだ。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#2では、ベンダー、コンサルを巻き込んだ内部の暗闘を明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

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ベンダーが群がる「DXバブル」
競争過熱が引き起こした“大事件”

「案件だらけで、まさにセブン“DXバブル”と言っても過言ではない」

 セブン&アイ・ホールディングスに関わるコンサルティング会社の社員は、ここ数年の状況をこう振り返る。

 実際、セブン&アイグループのデジタルトランスフォーメーション(DX)施策は非常に多岐にわたる。同社は「攻めのDX・守りのDX」という戦略を掲げている。

「守り」がセキュリティー強化や効率化といった部分に主眼を置くのに対し、「攻め」は顧客サービスの向上が大きな目的だ。いってみれば、社内も社外もひっくるめて、全てDXで強化しようというわけだ。

 数だけではない。幾つかの案件は予算が数十億円の「超大規模」だ。代表例が、セブン&アイが2021年7月に公表した中期経営計画の中でも紹介された「ラストワンマイルDXプラットフォーム」だ。

 これは、AIを活用して、車両配置や配送ルートを最適化し、デリバリーを効率化するためのグループ共通の基盤である。こうした超大規模案件の多くは、完了まで数年単位の期間を要する。

 数の多さに規模の大きさ、さらには社の根幹を成すような重要案件……。それらのほとんどにシステム構築やアドバイザリー業務などが付随する。

 ITベンダーのみならず、コンサル会社にとってもいわば「セブン・ゴールド・ラッシュ」状態にあるのだ。

 一方、DXバブルで過熱したITベンダー間の競争が、セブン&アイの“DX敗戦”の一因となったとの見方がある。一体どういうことか。

 特集#1『【スクープ】セブン&アイのDX、担当役員は失脚しIT新会社は白紙!内部資料で暴く「完全崩壊」全内幕』でも触れたように、セブン&アイのDX敗戦の根本は、DX戦略の「司令塔」だったグループDX戦略本部の解体と主要施策の撤回に加え、それらを1年超にわたり率いてきた米谷修氏が事実上の“失脚”に追い込まれたことだ。

 そして、“引導”を渡したのは創業家出身で取締役常務執行役員の伊藤順朗氏である。

 そもそもDX管掌の取締役とはいえ「門外漢」の伊藤氏によるDX戦略への“介入”は、米谷氏率いるグループDX戦略本部のやり方に不満を持つ事業会社の声をくんだものとされる。

 だが、それだけではない。

 実は、伊藤氏と米谷氏の間で、大手ITベンダーへの巨額の発注を引き金とした「いざこざ」が過去にあったというのだ。

 そしてその際に伊藤氏が米谷氏に対して抱いた不信感が、後の苛烈な追い込みにつながった可能性があるとセブン&アイの関係者は指摘する

 巨大グループのDX戦略、そして大手ITベンダーの序列にさえ影響を及ぼした可能性がある「重大事件」の全容とは。当事者となった複数のITベンダーの実名と、金額にも触れながら紹介する。