日本の一部企業が
中国から報復措置の恐れ

 一方、中国側の動きも無視できない。

 中国全人代の常務委員会は昨年6月10日、ウイグル人権問題などを理由に米国が中国に制裁を発動する中、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする反外国制裁法を可決した。

 同法を巡っては、常務委員会が同月7日に可決に向けての審議を開始し、夏までに可決される予定だったが異例のスピードで可決された。それだけ中国側の強い姿勢が感じられる。

 また、日本企業との間で反外国制裁法が懸念されるのは、同法が“外国による制裁に第三国も加担すれば第三国にも報復措置を取れる”と明記している点だ。

 具体的な措置としては、同法は対象者に対する国外追放や入国拒否、中国企業などとの取引禁止や中国国内の財産凍結などを挙げているが、「第三国」になるかどうかは中国側の意思と決定による。したがって、昨年にウイグル産製品の使用停止や調達先変更を発表した一部の日本企業が、欧米に加担したと受け止められる可能性も否定はできない。

 さらに、もっと視野を広げて考えるべきは、英国やオーストラリア、カナダなど米国と同じスタンスを取ろうとする国々の動向だ。

 2月の北京五輪を巡っては、現在のところ米国や英国、オーストラリアやカナダなどが外交的ボイコットを宣言する一方、フランスやイタリアはそれを否定しているが、日本企業としては英国やオーストラリア、カナダなどの企業との取引・貿易上、人権デューデリジェンスを巡る動向がどう影響してくるかも注視する必要がある。米中対立と人権デューデリジェンスという問題が波及する範囲は拡大している。

 当然ながら、米中対立といってもそれによって米中間の経済的やりとりが大幅に減少するわけではなく、政治は政治、経済は経済と割り切るビジネスパーソンも多いことだろう。一つの政治リスクによって中国からの撤退や規模縮小を考える必要性は薄い。

 しかし、コロナ禍もあり、世界経済の行方が不透明で主要国間の競争が激しくなる中においては、現在考えられる政治リスクを企業経営の中でこれまで以上に取り入れ、戦略的に行動していくという姿勢が望まれよう。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)