立地条件などが悪く、資産的価値がゼロに近い“絶望的条件”の古い空き家を、独自のリノベーション手法でシェアハウスなどに再生。自由度の高い活動拠点を求めるクリエーターやアーティスト、起業家らに提供し、地域活性、多様な生き方の支援、さらにはサステナブル(持続可能)な社会の実現を追求し、注目を集める企業がある。宮城県石巻市の巻組だ。(取材・文/大沢玲子)
起業の契機は、2011年5月、大学院で都市計画を専攻していた渡邊享子氏(同社代表取締役)が、東日本大震災のボランティアとして石巻を訪れたこと。支援活動に当たる若者向け賃貸住宅が不足している事態を受け、「何とか空き家を探し出し、改修して活動拠点として提供したのが原点です」(渡邊氏)。
いくつか物件に携わる中、15年3月、同社設立。空き家の改修、シェアハウスの運営を進める傍ら、他団体とも連携し、空き家所有者と借り手をマッチングさせるイベントの開催、古民家と担い手のいない田畑を活用したファームステイ施設「Village AOYA」のリノベーションおよび設立サポートなど、広く事業を展開していく。同社の事業、空き家活用についての理解も徐々に浸透し、改修した物件は約40件、運営するシェアハウスなどは市外の物件も含め約15件、延べ入居者数は100人を達成している。
新築住宅の量産により
加速する空き家問題に挑む
一方で時代の推移とともに、新たな課題も浮かび上がる。その一つが、復興事業によって新築住宅が増加する傍ら、空き家の数が増加するという皮肉な実態だ。
「石巻ではこの10年で復興予算により新築住宅が約7000戸供給される一方で、人口は流出や自然減で約2万人減少し、空き家は約1万3000戸にまで増加しています」(渡邊氏)。これは石巻に限った話ではなく、全国に放置されている空き家は約850万戸にも上り社会問題化している。だが住宅市場においては依然、交通利便性がよい築浅の物件が重宝され、画一的な間取りで機能過多な新築物件が量産され、アーティストなどが自由な活動の場を失う問題も指摘される。
「空き家問題を解決するには住宅供給の市場そのものの課題に取り組み、サステナブルな住宅開発のモデルを広める必要があると考えています」と渡邊氏。リノベーションにおいては、過剰な機能をそぎ落としたミニマルなスタイルを追求し続け、新たにベンチャー企業とも提携。「コストパフォーマンスのよいリノベーションスタイルの開発に取り組み、協業により新しいシェアハウスブランドを展開。賃貸に代わる選択肢として全国に浸透させていきたい」と語る。