逆に文系(特に文学部)でスポーツを嫌う学生は「病弱で左翼的過激思想に耽溺(たんでき)している」と見なされ、企業側からは忌避されていた。

「こうして、体育会系神話は成立していきましたが、それが最盛期を迎えるのは1980年代末から1990年代初頭とみています。その頃には進学率が大幅に向上し、大卒者のエリート性は低減しましたが、企業スポーツ文化の隆盛やリクルーター制度により、バブル崩壊頃まで体育会系学生は就職に有利でした」

 例えば当時、新しい企業スポーツとしてアメリカンフットボールが注目され、次々とチームが創設された。当時のアメフトは野球やサッカーに比べ、まだマイナースポーツであり、国公立大や名だたる優良私学にしか強いチームがなかった。その中で、特にリクルートなどでは、高偏差値大学出身者の確保と企業スポーツ強化の観点から、アメフト部の新卒者を意図的に集めていたという。

体育会系学生で
広がる大学格差

 ただ、バブル崩壊から現在にかけて、その神話は変容していると束原氏は述べる。すべての体育会系学生が有利というわけではなく、「エリート体育会系とノンエリート体育会系に分化し、格差が生じている」というのだ。

「2000年前後から急速に18歳人口の減少が始まったことで、それまで新増設を繰り返し、キャパシティを拡大していた国内の私立大学の多くは経営難に陥り、2010年代に入ると実に40%の大学が定員割れを起こすようになりました。特に中堅以下の私学では、その傾向が顕著でした。経営に窮した中小私立大学は学力が不足している学生をスポーツ推薦制度によって入学させ、なんとかして定員を確保しようと努めるようになったのです。拙著ではこの状況について、たしかに全体の学生アスリート人口は増加したが、今まで通り優良人材とみなされる『伝統的で威信が高い(高偏差値)大学出身のエリート体育会系学生』と『中堅以下大学のノンエリート体育会系学生』に分化したのだ、と指摘しました」