エリート体育会系は「今でも若干就職に有利」だという。その背景にあるのが、日本の特殊な雇用慣行だ。

 欧米では働き手の職務内容をあらかじめ明確に定めて雇用する「ジョブ型雇用」が一般的であるのに対し、日本企業では今でも新卒を一括採用して入社後に仕事を割り当てる「メンバーシップ型雇用」が主流だ。

 そのため、企業が採用時に求めるのは、どんな環境でも対応できる人材である。

「どの部署に配属しても適応できる人材を求める企業にとっての評価ポイントは『地頭の良さ』『地道に継続して学習する能力』『要領の良さ』などです。新卒一括採用の慣行の中では,採用側は限られたスケジュールの中で情報不足のまま採否を決めなければならず、何度も面接を繰り返して人物や適性を見極めるという地道な作業の代わりに、『高偏差値大学(地頭がありそう)』や『体育会系(継続する力、根性がありそう)』といったある種の“シグナル”を選考に利用してしまう。結果的に高偏差値大学の体育会系=エリート体育会系が有利な状況、つまり優良大学からの方が人気企業に就職しやすい状況が続いているという印象があります。一方のノンエリート体育会系は大学にとって財務上の安定に寄与し、大学スポーツが新たな展開をむかえる(競技横断型大学スポーツ協会UNIVASの設立など)改革のきっかけにはなりましたが、就職に際して大企業社員のイスまでは用意されなかった、ということになります」

 メンバーシップ型かつ新卒一括採用の場合、企業は早期にメンバーを囲い込む必要に迫られる。そうした際に、エリート体育会系はわかりやすい指標となるのだろう。

新卒採用で人気が高い
新興スポーツの経験者

 近年では日本企業でも、ジョブ型雇用を導入する企業も増えつつある。富士通やNTTなどではすでに管理職にジョブ型雇用を適用しており、1月10日には日立製作所も全社員に適用する方針を出した。

 このような雇用の変化は、既存の体育会系神話にどのような影響をもたらすのだろうか。

「神話のさらなる変化を期待したいです。現在の所属(学歴)に頼るメンバーシップ型では、採用時に大学ランクが先行しがちで、アスリートとしての経験や学業面の成績などが適切に評価されていません。GPA(学業評価)の重視に加え、大学のランクを問わず、アスリートとしての実力(ある対象に情熱を傾け、熟達する力)やマネジメント能力などがもっと評価されるようになればいいと思います」

 本格的なジョブ型導入は全国的にはまだなされてはいないが、近年でも体育会系の就職に変化が起きているという。