「うちはつぶれると確信していた」などのネガティブ発言で知られるダイソーの創業者、矢野博丈氏。彼がダイソーを100円ショップの雄に育て上げた成功のカギは、「在庫は悪」というセオリーに反する経営方針だった。コロナ禍の今、再評価される矢野氏の在庫ポリシーとは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
ダイソーがセオリーに反する
「在庫は宝」で成長できた理由
「在庫をどんどん増やせ。在庫は宝じゃ」
100円ショップの雄でありながら、「(同じ100円ショップ業態の)セリアさんのおしゃれな商品には勝てない」「うち(ダイソー)はつぶれると確信していた」「お客さまはよく分からない」などのネガティブ発言で知られるダイソーの創業者、矢野博丈氏の発言だ。
通常、「在庫は悪」だと、ものづくりや産業の現場では言われてきた。在庫は、置いておくだけでも倉庫代などのコストがかかる。さらには在庫品そのものに税金がかかる。そのため、小売店やアパレルなどでは「期末決算セール」と題した安売りが行われる。在庫を減らし、税金を減らすためだ。
筆者のいた出版業界でも、「在庫を持ちすぎるな」とはよく言われるところであった。出版社が決めた定価を守る「再販制度」があって安売りが原則できない出版業界。そのため在庫を減らすために書籍や雑誌の「裁断」、つまり本や雑誌を細かく切り刻んで処分することさえある。
投げ売りができず、置いておくだけでコストになる本は、闇で流通しない形、つまり裁断や溶解という処理をしてでも捨てるしかない、というわけだ。ことほど左様に、「在庫は悪」なのである。
だがセオリーに反する矢野氏の発言が、実はダイソー成功のカギだった。