欧州並みの大規模な設備が必要だと言いたかったようだが、当然、地元宮崎県民から批判を浴びた。それでも石原氏の強い意向で、国鉄時代に開設された宮崎の実験線は廃止され、山梨県にある現在の実験線が建設されることになる。

 石原氏は、リニア計画を進めるJR東海の葛西敬之名誉会長との対談(11年8月13日付産経新聞朝刊)で「東京から大阪まで、2つの大都市が一緒になるだけじゃなくて、同時に太平洋側の産業ベルト地帯がものすごく活性化する。人類の技術の画期的な実験だと思う。葛西さん、長生きして、必ず実現してくださいよ」とはっぱをかけた。

 だが現在、計画は前途多難だ。静岡県は南アルプストンネル工事によって減少する湧水を全量、大井川に戻すよう求めている。JR東海が示した対策について県は1月26日、「現状では工事を認める状況にない」との考えをJR東海と国土交通省に伝えた。事態は暗礁に乗り上げ、27年の名古屋開通が不安視されている。18年にはトンネル工事を受注したゼネコン幹部が談合事件で逮捕されるなど波乱続きだ。

一橋大学で簿記を学び
都の会計を改めた

 石原氏は一橋大学入学当初、公認会計士を目指して簿記を学んでいた。そんな知識を生かし、単式簿記だった都の会計を複式簿記に改めた。

 当時の行政機関で当たり前だった単式簿記は、現金の出入りを記帳するだけであるため、職員の借り入れに対する認識が薄れ、公共事業の乱発や年度末に予算を使い切るといった悪習の原因になると石原氏は批判。都で06年に始まった新しい会計システムでは、金額を入力すると自動的に財務諸表が作成され、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、民間では損益計算書に当たる「行政コスト計算書」などがそろった。これが奏功したのか、都債発行額を減らしつつ基金を積み増し、都財政は改善した。

 総務省は、行政改革の機運が高まった小泉純一郎政権時代から、自治体の債務や資産の透明性を確保できる仕組みが必要だとして、財務処理の基準を研究していた。14年には、全国の自治体に発生主義に基づく財務諸表を作成するよう要請。20年3月末時点で、全国42の都道府県(全体の89.4%)と、1523の市区町村(同87.5%)で導入されている。

 総務省の担当者は「石原氏は都独自で会計方式を変更しており、総務省の要請とは無関係」としているが、小泉政権時代こそ石原都政の絶頂期であり、一連の議論に影響を与えたと当の石原氏は考えていたかもしれない。

 都知事に就任した99年に早々に打ち出したディーゼル排ガス規制は評価が高く、石原都政を代表する政策と言える。