全般的にテロ事件の発生で国外退避が選択肢となるケースはまれだが、2019年4月のスリランカ同時多発テロのように、大規模なテロによって国家非常事態宣言が発令され、ネットの遮断や夜間外出禁止、公共交通機関などのインフラまひなど日常生活に大きな影響が出る場合もある。

 最近、バイデン大統領がイスラム国のバグダディ後の指導者をシリアで殺害したことが大きなニュースになったが、イスラム国やアルカイダ、それらを支持する武装勢力は依然として各地に点在しており、それらの再生を懸念する声は安全保障専門家の間でも聞かれる。

 9.11同時多発テロ以降、日本人は断続的にイスラム過激派によるテロの犠牲になってきたが、今後もその恐れはあり、企業はテロやクーデターといったタイプの政治的暴力への備えも強化する必要がある。

 国家間紛争やテロ、クーデターや抗議デモは、それぞれ大規模なものから小規模なもの、短期的に終わるものもあれば長期化するものもあり、どれが一番深刻なリスクであると断定はできない。

 しかし、こういった政治リスクに対応する上で最も重要なのは、情報の収集と分析、共有である。

 いくら避難体制を構築し、その訓練などを実施していたとしても、世界情勢は日々流動的に変化しており、情報収集の遅れによって社員の退避が難しくなる場合もある。要は、情報は毎日のように変わるので、そのアップデートが必要なのだ。

 今回のウクライナ危機では、商社マンやその帯同家族が早期に退避を完了したように、今後より不安定化する世界を見据え、企業には政治リスクの把握と情報収集のアップデートがこれまで以上に求められている。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)