北京冬季五輪が開幕
習近平がその先に見据えるもの
北京冬季五輪が開幕した。スキージャンプ男子個人ノーマルヒルに出場した小林陵侑選手が、男子ジャンプ、日本選手として、1998年の長野大会以来24年ぶりに金メダルを獲得するなど、大会の模様は日本国内でも連日注目されている。
筆者は2008年の北京夏季五輪を現地で経験した。当時は経済の2桁以上の成長は当たり前。五輪を通じて民衆の愛国心が盛り上がり、インフラも急速に整備されていき、「国威発揚」の光景を目の当たりにした。所属していた北京大学はマラソンコースや卓球会場になっていて、市民と五輪が一体となって突き進んでいる雰囲気を肌で実感した。
あれから約14年が過ぎたが、今回の北京五輪は別物のようである。
北京では、ほかの地域同様「ゼロコロナ」が徹底され、本大会では、選手・スタッフと市民の接触が厳しく禁止される「バブル方式」が取られている。例として、選手・スタッフが乗った車と一般市民が乗った車が公道で衝突し、交通事故が発生したとしても、両者は下車が許されず、警察が来るまでその場を動いてはならない、といった具合である。地方から北京に入るには48時間以内のPCR検査が求められ、14日以内にコロナの「中リスク地域」(累計感染者0~50人)に赴いた経緯のある人は入京が許されない。駅や空港、高速出口にて、出発地に追い返されてしまう。
とりわけこの期間は、例年延べ30億人が移動する春節と重なっていて、北京当局は「五輪×春節×コロナ」という3重圧力に見舞われている。昨年12月に開催された中央経済工作会議は、昨今の経済情勢が「需要の収縮×供給の制約×成長見通しの悪化」という3重圧力に見舞われているという現状認識を披露したが、筆者の理解では、昨今の中国はまさに、新型コロナの抑制と経済成長の促進をめぐる「ダブル3重圧力」に直面している。そんな中で強行的に開催されているのが、北京冬季五輪ということであろう。
今秋開催予定の第20回党大会を経て3期目突入をもくろむ習近平国家主席(以下敬称略)としては、コロナ抑制、経済成長は当然のこと、北京冬季五輪を無事、円満に成功させ、自らの権力基盤の強化につなげたいところだ。一方で、習近平の続投など序の口であり、重要な問題は、続投後、2035年、2049年を見据えて「中華民族の偉大なる復興」の実現に向けて世界戦略を秘めていることであると、筆者は考えている。
本稿では以下、北京冬季五輪の開催過程・舞台からうかがい知れる「習近平の世界戦略」の一端を浮き彫りにしてみたい。