値上がりの範囲はエネルギーにとどまらず、鉄鉱石や銅などの工業原材料、さらには穀物など食料品にも及んでいる。

 経済全体を大まかに見ると、企業はコストの上昇を価格に転嫁できておらず、利益の圧迫を受けた状態にある。

原料などの値上がりコストを払う
「貧乏になりながらのインフレ」

 企業側の対策は、各種の合理化によるコスト削減と、製品価格の引き上げだ。ところが、前者は賃金の抑制要因で間接的に需要を圧迫する要因であるし、後者に関しては価格引き上げに厳しい消費者の目線と競合他社との腹の探り合いで、なかなか進まない。

 もっとも、経験則的には、「川上」の物価上昇は、半年くらい遅れて「川下」に波及する。昨年春の携帯電話の料金引き下げの影響が今後消えることもあり、消費者物価にもインフレは到来するだろう。

 うまい棒が10円から12円に値上げされたり、すき家の牛丼並盛りが昨年12月に値上げされたりしたように、既に値上げが始まった商品もある。

 政府と日本銀行は10年近く「2%」のインフレ率の達成を目指してきた。しかし今回のインフレは、好景気で賃金と物価が両方上がるような、「経済の好循環」と共存する望ましいインフレにはほど遠い。

 久しぶりのインフレなので、数十年前の高校の政治経済の教科書にあったインフレの分類を思い出そう。経済の需要が活発で起こるディマンドプル・インフレではなく、原料などのコスト高が原因で起こるコストプッシュ・インフレということになる。

 輸入を急に減らすことができない財の値上がりによるコストを払いながらの物価上昇だから、国全体としては貧乏になりながらのインフレだ。