少数民族に韓服を着せた
中国の文化帝国主義

 そのように、東京オリンピックで反日姿勢をあらわにした韓国であるが、北京オリンピックでは、中国にバッシングされていることを痛感しているであろう。日本に対して取った行動を中国によって思い知らされているのが、冒頭で触れた北京オリンピック開会式における韓服論争である。

 北京オリンピックの開会式では、中国に暮らす56の民族が、中国国旗「五星紅旗」を手渡しで掲揚台までつないだが、その中にピンク色のチマと白いチョゴリを着て髪を三つ編みにした女性がいた。韓国では韓服を中国文化と誤解しかねない場面だったとの見方が広がった。

 韓国のソーシャルメディアとオンラインコミュニティには中国が自分の歴史を作ろうとする「東北工程」(中国東北部の歴史研究を目的とする中国の国家プロジェクトで、中国は高句麗、百済と渤海を中国の地方政権との扱いにした。これに対し韓国内で激しい抗議が発生したが、韓国政府は「学術討議で解決していき、政治問題とはしない」とあいまいな決着をした)に例え、「文化東北工程、韓服工程(韓国の文化や韓服までも中国を起源にしようとしているとの意味)」という批判があふれた。

 一方、中国のネットユーザーは「(中国に暮らす)朝鮮族が伝統衣装を着て出たことの何が問題なのか」「(中国に暮らす)少数民族の文化を見せようとするものにすぎない」と反論している。

 中国は2020年に韓服やキムチは中国由来だとする主張を強め、そこから「韓服工程」「キムチ工程」という言葉が生まれていた。

 韓国SBS放送の時代劇『紅天機(ホンチョンギ)』に登場する女優が着た韓服などをめぐり、中国文化を盗作したと主張している。中国が韓国のエンターテインメント産業に投資した際、ドラマなどに過度に介入したことも拒否感を呼んだ。こうした動きを見れば韓国国民が、中国の今回の行為に意図を感じないわけにはいかないだろう。

 また、中国が公式行事で少数民族を登場させるのは、さまざまな民族で成り立っているという「統一的多民族国家論」が根底にあるという説も聞かれる。しかし、これは多様な民族を包容する姿勢というよりも、「皆が自分たちの下に入れ」という帝国主義的発想が原点にあることは、ウイグル族に対する非人道的行為から明白であろう。

 韓京大学のユン・フィタク教授(中国現代史)は「中国は習近平政権の発足以降、愛国主義を過度に強調し、過去の中国の全盛期に存在していた文化や歴史は今もすべて中国のものだという立場を取っている」と分析している。

 こうして見ると、オリンピックに登場した韓服に対する韓国の国民の反発は若干過剰とはいえ、もっともな部分が多い。中国が行ったことは文化帝国主義的な行為であり、中国の文化歴史の宣伝行為である。