哲学コンサルティングによって
「無意識のバイアス」をあぶり出す

 改めて、哲学コンサルティングとは何か。それは、「哲学の知識や思考法、態度、対話を通じて、企業の課題あるいは社会課題について分析したり、解決に向けて探求したりすること」だといえるだろう。

「社会や組織において、何がよいことなのか一緒に考え、探求すること。ここでいう哲学とは、人生訓や格言、信念ではなく、『なぜそうなのか?』『それはどういう意味か?』などと問い、筋道を立てて考えることです。ビジネスの手法や経営学の知恵も併用するとはいえ、哲学の専門知識や手法を使うという点は、一般的な経営コンサルとは異なります。とりわけ、クライアントの企業やプロジェクトチーム、あるいは経営者自身が、どんなことに意味や価値を見いだして現実化していきたいのかについて思考を深める支援をする点は、哲学コンサルティングならではの部分です」

 自分たちだけでは見えていない前提や無意識のバイアスをあぶり出すこと、突き詰めればそれが哲学コンサルティングの役割なのかもしれない。

 クロス・フィロソフィーズでは、企業の経営企画部、R&D(研究開発部)、人事部をはじめ、NPO法人や国立機関からも依頼を受けることが多いという。新規事業の課題分析や、既存理念の見直しと再構築、対話文化を取り入れた組織開発などの支援を求められるそうだ。

「例えば、働き方改革の一環で、働きやすい職場や女性活躍を実現しようと、何かしらの施策を講じたいとします。しかし、個人個人で働きやすい職場や女性活躍の定義は異なりますし、世代ごとの価値観も異なります。他社や他業種の好事例が、自社に当てはまるとは限りません。そこで哲学コンサルティングでは、ワークショップを通じて、別の視点に振ったり、哲学の専門知識を踏まえながら新しい選択肢を提示したりします。それにより自分たちのするべきことが見えてくる。こうした支援を求めている企業は年々増えています」

 最近、企業の中にはビジョンやパーパス(自社の存在価値)を見直し、社会的な存在意義を再定義しようとする向きがある。あるいはSDGsやESGにどう向き合い、コミットしていくのかを模索している企業もあるだろう。

 そのときに重要な役割を果たすのは、経営者の価値観であり、それに共鳴する従業員たちの存在だ。不透明で不確実な時代を生き抜く原動力となる価値観をつかむために役立つ手法が、哲学コンサルティングといえそうだ。