トランスフォーメーションの動機としてのパーパス

 いま、社会は大きな変動の時代を迎えている。従来は経済合理性にあった重心が、新たなバランスを求めて揺れ動いているともいえるだろう。極限まで無駄を省いた効率性ではなく、スラック(余剰・余裕)の価値が見直されていることはその好例と考えられる。

 ただし、そうしたリバランスの動きが、放っておいてもよい方向にいくとは限らない。なぜなら、これらの大きな変化には、いずれも「トレードオフ」が発生するからだ。経済合理性という金科玉条が取り外された時、誰もが受容・納得できるような方針・指針は簡単には見つけられない。どの事象も一義的に善悪を決められるものではないと同時に、振れ幅の大きい極端なものにもなりうる。世界の大きな振り子が動き出したととらえるべきであろう。

 企業と社会に求められるものは、この両極のなかで、高次なバランスを改めて創出することである。それに当たり、企業がもつべきものは能力だけには留まらない。そこには、自社の存在意義に根差した意志が必要になる。これは当然のようでいて、決して容易ではない。不確実性が高まるなかで、リスクを取って高次なバランスを創出するには、なぜ自社がそれを担うのかについて、経営陣の深いコミットと、実行に当たっての腹落ちが必要になる。

 それを明確にすることは、「自分たちは何者か」を問うことにほぼ等しい。それらを明確にして経営戦略につなげていくために「パーパス」が必要になるのだ。

 不確実性の高まる環境において、企業は絶えずトランスフォーメーション(変革)を続けていかなければならない。なぜそのトランスフォーメーションが必要なのか、その結果としてどのような存在意義を発揮していたいのかという変革の動機を掲げ、社内外に共有する必要性が高まっている。その動機となるのがパーパスである。社長交代といった代替わりのタイミングにパーパスを定義・明文化する企業が多いように見えるが、パーパスは所信表明として示されるものではなく、変革の礎なのである。