アベノミクスの第一の矢である金融緩和と、第二の矢である財政政策の関係について、財政が金融の邪魔をしてはならず、機動的なというより継続的な財政政策が重要である。財政が金融緩和の足を引っ張らないようにするために、アベノミクスには課題として、法定化された消費税増税をどう乗り切るのかと、プライマリーバランス(PB)黒字化目標をどう克服するのかという2つのテーマがあった。

 IMF(国際通貨基金)では2年以上連続して物価が下落するのをデフレと定義しており、その意味では、今の日本はデフレではないが、将来にわたってショックがあってもデフレには戻らないという状況までには、まだ達していない。世界中がインフレ率2%を目指している中で、日本は0.5%でもいいということになると、常に円高圧力が日本にかかることになる。したがって、世界が2%を目指している以上、日本もこれを目指すというのがアベノミクスの残された課題である。

 IMFの定義いかんは別として、名目GDPが伸びていかない限り税収は伸びていかないのであるから、デフレのまま、デフレを事実上放置したままでは財政健全化は不可能である。そして、高度成長期やバブル期、そして安倍政権期のように成長率が金利を上回るというドーマー条件を満たしているのであれば、PB黒字化目標を、いついつまでに達成というようにカレンダーベースで置くべきではない。つまり、PB黒字化に向かって緊縮的な政策を取る必要はない。財政がどういうパフォーマンスなのかを意識するために、PBがどうなっているかを認識する必要はあるだろうが、基準として置くのであれば、むしろインフレ率がどうなっているかというところである。

 経済をよくしないと財政はよくならない。税収は名目GDPによって決まる。名目GDPに税率を掛け算したものが税収であるから、名目GDPがデフレで縮小しているときは、税収も同様に縮小する。だからまずしなければいけないことは、名目GDPを増やすことである。そうすると、弾性値効果で、GDPが1%成長すると2倍3倍に税収が伸びる。所得税を例にすると、低所得者、中所得者、高所得者によって税率が異なる(所得額による税率の変化)累進課税になっている。おしなべて高所得者化すると、ブラケット(税率適用所得区分)が上に移っていく。そうすると何倍かの税収が伸びてくる。それを最大限活用すべきだ。

PBの黒字化を急ぐ必要はない
まずは2%のインフレ目標達成を

 PB黒字化について、一刻も早く黒字化しないと後が大変だという方がいるが、そこは心配する必要はない。金利と成長率の差が非常に有利なタイミングである。10年物の国債金利をゼロに抑えている。成長率のほうが必ず金利よりも大きいという、成長率ボーナス、金利ボーナスと呼ばれる状況にある。そうすると、債務のGDP比率は発散しない。必ずどこかに収束する。PBが問題になってくるのは、例えば上に収束した場合だ。その値が、2%を超えて3%になった場合など、少々インフレ率が高すぎるなというときには、PBを少し締めて、債務対GDP比を少し抑える必要があるが、今はインフレ率がほぼゼロに近いので、全く心配はいらない。

 まずは、われわれが目指すべきは成長率をできるだけ引っ張っていき、2%のインフレ目標をできるだけ早く達成するということであって、PBは、実は黒字にしなくてもいい。小さな赤字幅であれば全然問題ない。インフレ率が高くなってきたときには黒字化も一つの目標になり得ると思うが、それは先の話で、経済が成長した後の話である。

 国債の発行について、将来世代にツケを残すという批判をよく聞く。経済状況によるが、需要が足りないときに、資金市場から国が国債を発行して資金を調達して、その資金で財政を出していくのは当然であり、そもそも日銀がほとんど買っているので問題はない。

 償還期限が来れば、現金で償還することはなく、借換債を発行する。仮に現金で償還するとしても、償還に必要な資金を集めるために増税し、その税収を資金として償還をするので、国民の手からお金をいただいて、そのお金で国債を持っている国民に返すことになる。その世代で見ると、右手で渡して左手でもらうということで、世代として見れば負担はない。

 かつ、今の国債の保有構造を見ると、ほとんどが日銀、金融機関、生保、機関投資家、年金基金などの法人組織が持っている。国民のほとんどがそうした法人組織から利益を得ているので、仮に増税して資金を渡しても、返ってくるお金はほぼ均てんすると考えられる。

 もし、税金を払う人と国債の償還を受ける人が全く違うのであれば、そこは所得再分配政策を新たに取らなければならないという判断はあり得る。ただ、現実の国債保有構造を見れば、そういうことはまずないと思う。今のように需要不足経済では、金利が上がる心配をする必要は全くない。そういうときに国債を発行して財政を出しても、将来負担の心配はないし、それをやらないと資金を有効に活用したといえないと思う。ぜひこのチャンスを活用して、有効に資金を使ってほしいと思う。

>>(下)に続く