――環境保全の面で重要な技術ですね。
田中 また、老朽化した下水道管や農業用水管の内部を修復する不織布シートの加工にも使われています。下水道管は簡単には取り替えられないので、老朽化したときは管の内側にガラス繊維でできた不織布シートを筒状にして修復する方法が用いられてきました。ただ、こちらも産廃処理施設の不織布シートと同様に、つなぎ目に隙間ができるという問題を抱えていました。そこで、ニードルパンチ技法を活用したわけです。
他にも自動車関連の業務も手がけています。ニードルパンチ技法自体は珍しくないのですが、特殊加工に使う装置を開発しているのは、世界でも弊社だけだと思います。
――1996年に起業されたそうですが、当初からニードルパンチを?
田中 はい。起業する前はミシン会社に勤めていて、海外営業や設計技術を担当していました。独立を考え、競合がいない、前職とバッティングしないビジネスを探していたときにニードルパンチ技法に出合ったのです。服の刺しゅうやプリントのデザインに代わるような面白さがあると感じ、協力工場を見つけてニードルパンチの装置を開発しました。
そうした経緯だったので、起業から20年はアパレル業界だけで仕事をしていました。年に何回か渡欧するだけでなく、一時はイタリア・ミラノに事務所を構え、欧州の高級洋品店やデザイン学校などに卸していました。また、国際ニードルパンチ協会を立ち上げて、「個人でもストールやブローチを作れる」とニードルパンチミシンを販売しました。これも海外展開から始め、日本に逆輸入する形で、デパートなどで実演イベントを開催。洋服や生地を製造していたこともあります。
――今と全く違ったのですね。
田中 ところが4~5年前に、たまたま産廃処理施設からの相談が回ってきたのです。そこでニードルパンチ技法をご提案したら、採用していただきました。正直、このような用途があるとは想像もしていませんでしたが、以来、他の業種の方からも相談を受けるようになり、今では産業用が主力になっています。
●株式会社タナカアンドカンパニーリミテッド 事業内容/ニードルパンチ技法を軸とした産業用資材特殊加工機械の開発設計製造および国内海外販売、国際ニードルパンチ協会の運営管理、従業員数 /2人、所在地/奈良県奈良市学園北1-16-4 学園前パークヴィラ1003号室、電話/0742-47-0832、URL/tanakaandcompany.net
――現在の課題は?
田中 まだまだニードルパンチ技法の知名度が低いことですね。特に産廃処理施設の事業者さまには浸透していないので、ぜひ広めていきたいです。奈良信用金庫さんの営業の方にもお客さまをご紹介いただくなど、協力していただいています。
産廃処理施設や下水道管だけでなく、まだまだ他の用途があるはず。難しい問題を抱えて困っている事業者さまには、ぜひ気軽にご相談いただきたいですね。
多くの皆さんに「あー、あれね! 知ってる知ってる!」と思っていただけるまで、ニードルパンチ技法を広めたい。絶対に諦めずに、不可能を可能にしていきます。
(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2022年3月号掲載、協力/奈良信用金庫)