ウクライナと台湾の
五つの相違点

 ウクライナと台湾の状況について、その相違点は大きく下記の五つだろう。

(1)台湾は周辺を海に囲まれている

 中国が台湾を攻撃する場合、すぐに戦車部隊などは投入できない。加えて台湾西側(つまり中国側)は絶壁が続く天然の要害である。

(2)台湾は第1列島線の中心に位置する島である

 台湾は、中国が戦略的防衛ラインと考える第1列島線(九州~台湾~フィリピン等を結ぶ南北のライン)の中央にある。このラインを越えて中国軍が侵攻すれば、太平洋が危うくなりアメリカが黙っていない。

(3)アメリカには台湾を守る法律が存在する

 1979年、カーター政権時代、台湾の安全保障について定めた「台湾関係法」が制定されている。2020年、トランプ政権下では、台湾に防衛装備品の売却と移転を奨励する「台湾保証法」も制定されている。

(4)台湾は半導体立国である

 半導体不足が指摘される中、台湾は半導体出荷量世界一の「半導体立国」で、台湾積体電路製造(TSMC)は、時価総額でインテルやサムスンを上回る企業に成長している。

(5)中国には急いで台湾を統一する理由がない

 習近平の長期政権が確定的になる今年秋の共産党大会を経て、さらに軍事力を強化してからでも遅くない。2027年の中国軍(人民解放軍)創設100周年あたりが焦点。

 これに対し、ウクライナはロシアと陸続きだ。IT産業こそ成長しているが貧しい国で、特筆すべき資源も産業も少ない。NATO(北大西洋条約機構)加盟国ではなく、アメリカとも同盟関係にない。

 侵攻に伴う原油高や金融不安は深刻な問題だが、アメリカ等の国々がウクライナに武器提供などの支援はしても、軍を派遣してまで支援しようとしないのは、ロシアと核戦争になるのを避けたいことのみならず、犠牲を払ってでも支援する理由や魅力がウクライナにはないからだ。

 もちろん、ロシアによるウクライナ侵攻や、ロシアに対する国際社会の動きは、連日、アメリカでも台湾でも大きく報道されている。

 中には「ウクライナは明日の台湾」とする論調も散見されるが、台湾に関して言えば、前述した邱太三だけでなく、総統の蔡英文までもが「ウクライナと台湾は本質的に異なる」と強調しているのは、フェイクニュース等によって国民心理を不安定化させない狙いに加えて、「台湾にはアメリカがついている。ウクライナとは別」と再認識させる思惑があるとみられる。