米ニュースサイトの翻訳メディアとして支持を集めていた「TechCrunch Japan」「Engadget 日本版」が、今春をもって閉鎖すると突然発表した。運営元は詳しい理由を説明していないが、背景に何があったのか。かつて「Yahoo!トピックス」の編集責任者を務め、メディア業界の移り変わりを目の当たりにしてきた筆者が、その要因を独自分析する。(東京都市大学メディア情報学部教授 奥村倫弘)
新聞はゆっくりと死を迎えるが
ネットメディアは突然死する
筆者がまだ「Yahoo!ニュース」編集部に勤めていた数年前のことだ。とあるネットメディアの閉鎖が決まったとき、若い同僚が「新聞はゆっくりと死を迎えていますが、ネットメディアは突然死しますよね」 と話しかけてきた。私は伝統メディアの行く末ばかりを案じていたけれど、言われてみれば、その通りなのだ。
新興メディアは日々続々と誕生している。収益化が難しくなった媒体は、ある日突然、更新が止まったり、閉鎖が発表されたり、あるいはページごと消えてしまったりする。
そして先日も、テック系メディアの「TechCrunch」と「Engadget」の日本版が2022年5月1日に閉鎖することが突然発表された。ネットメディアが一つ消えるたびに、彼の言葉を思い出す。
いずれのサイトも、私がずいぶん昔からRSSリーダーに登録して愛読してきたメディアだっただけに、ショックは大きかった。終了を余儀なくされた理由を探ろうにも、発表や報道がなされている「米国本社のグローバル戦略」という以上の情報は明かされていない。
しかし、これだけは言える。メディア企業は、コンテンツという商品を生み出す機能を持つだけでなく、企業自身も売買や査定の対象になる商品である。採算や成長が期待できなくなったら、サービスを閉じるか、新たな持ち主を探しに売りに出される。この現実は、資本主義経済において自然なことだ。
では、長らく「海外媒体の翻訳メディア」として支持されてきた両媒体は、なぜ資本主義経済に基づく「自然淘汰」の波にのみ込まれてしまったのか。
筆者が特に愛読していたTechCrunch日本版を中心に、媒体の歴史とメディア業界の流れを踏まえながら、その要因を分析してみたい。