DX狂騒曲#13Photo:DNY59/gettyimages

公正取引委員会がガバメントクラウドの開始に先立ち、全国の約1000の自治体を対象に初めて「ベンダーロックイン」の調査を敢行。特定ベンダーにおんぶに抱っこの状態に長年あり、自力ではそこから抜けられない自治体が多数あることを明らかにした。調査は自治体を主軸としているが、結論としては自治体のみならず民間企業が顧客の場合でも独占禁止法上の摘発強化の可能性もあり、民間企業と自治体のシステムを長年担当してきたITベンダーには大きく影響しそうだ。一方、ベンダーロックインを生み出してきた背景には歴史的な構造問題があり、根本的な解決には一筋縄ではいかない課題も横たわる。特集『企業・ITベンダー・コンサル…DX狂騒曲 天国と地獄』(全14回)の#13では、官公庁と企業を取り巻く、ベンダーロックイン問題の深層に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

公取委がベンダーロックイン摘発強化へ!
自治体向けと民間企業向けを報告書で非難

「システムを更新する際に、既存ベンダーからデータの移行費用として5000万円を請求されて断念。代わりに職員で一つ一つのデータを手打ちで移行する作業を行った」(人口20万人未満の地方公共団体)

「ベンダーから、既存システムの構造は『当社の知的財産権が関係するので開示できない』と言われた。追加費用を支払って、その構造を他のベンダーでも意味が分かる形に変換・抽出してもらわざるを得なかった」(人口20万人未満の地方公共団体)

「ベンダー変更を検討していたが,プログラムの著作権が既存ベンダーに帰属していたため、結局既存ベンダーと再度契約をすることとなった」(国の機関)

「既存システムのソースコードの変更履歴を、既存ベンダーしか把握していないので、既存ベンダー以外に発注することができない状態」(都道府県)――。

 自分の持ち物のはずのITシステムの中身も分からず、その生殺与奪権をITベンダーに握られている。こんな情けない深刻な事態「ベンダーロックイン」に、全国の官公庁が陥っていることが、公正取引委員会が2月に、国や地方自治体1000団体を対象に行った調査から明らかになった。

 調査では同じベンダーと再契約したことがある官公庁は全体の99%に上った。その理由も「システムの詳細な中身は既存ベンダーしか分からないため」などの後ろ向きの理由が多くを占める。これは人口の少ない自治体のみならず、都道府県・国にまで及ぶ。

 調査報告書では、このような事例が独占禁止法に抵触する可能性があるとして逐一上げられている。例えば「他社への仕様開示や引き継ぎを拒まれた」は取引妨害、「特定の社しか対応できない仕様書をベンダーが作成した」は私的独占、などと事例を挙げた上で「独禁法に抵触すると思われる案件については今後も厳正に対処していく」(小室尚彦・公取委調整課長 )という。実際に、2021年11月にはITベンダーのスマートバリューに公取委が立ち入り検査を実施し排除措置命令を出す、ということもあった。

 そして、報告書にはITベンダーにとってさらに脅威となる内容も盛り込まれている。今回の調査の主軸が自治体向けであるため、見過ごされがちだが、実は報告書では「ベンダーロックインが独禁法に抵触」して厳正な対処が必要なことは、民間の取引においても同様だと明言しているのだ。となれば、自治体のみならず、これまで民間企業にシステムを導入してきたITベンダーにはこれから猛烈な逆風が吹くかもしれない。そして、そのような“レガシーシステム”は日本企業において山のようにあるから、影響は計り知れない。

 公取委が国・地方公共団体のベンダーロックイン状態を調査したのはこれが初めてだ。公取委としては、ガバメントクラウドなど官公庁のデジタル化が進む中で、改めて現状を自治体やデジタル庁に問題喚起して、取り締まりを強化する狙いだ。

 それでは、公取委が摘発さえ強化すれば、ITベンダーだけが憂き目に遭い官公庁や民間企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は一気に進むのか。ことはそう簡単には進まなそうだ。というのも、ベンダーロックインを巡る問題は、日本のIT産業の歴史的な構造問題にも根差しているからだ。次ページからはそれをひもときながら、どうすれば解決の道が探れるのかを見ていこう。