経済産業省のDXレポートの中でも指摘された、日本企業のレガシーシステムの問題。メインフレーム(大型汎用)コンピューターという、旧来のクローズなシステムの維持管理が、企業のDXの足かせになっている。実はその問題にとりわけ悩んでいるのは生命保険業界だ。特集『企業・ITベンダー・コンサル…DX狂騒曲 天国と地獄』(全14回)の#7では、レガシーを捨てたくても簡単には動けない、生保業界の深刻で多層的な問題に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
「レガシーマイグレーションは困難」
生保業界システム担当者が頭を抱える理由とは
「われわれは米IBMに心臓を握られているようなものだ」。ある大手生命保険会社のCIO(最高情報責任者)は、周囲に自嘲気味にこう呟いているという。
実はこの悩みは、日本そして世界の大手生命保険会社が共通で抱える大問題だ。今、生保の契約情報をつかさどる、基幹システムの行く末が危ぶまれている。
生保の基幹システムとは、生命保険の契約者の情報を一手に管理するもの。さらには保険金支払いデータの更新などを行うシステムも一体となっていて、まさしく生保業務の生命線だ。
その生殺与奪の権を握るのは、IBMのたった1社。実は新興企業を除く世界のほぼ全ての大手生保の基幹システムは、IBM製のメインフレーム(大型汎用コンピューター)で運用されているのだ。
メインフレームとは、メーカー独自仕様のハードウエア上に独自基本ソフト(OS)と独自仕様のソフトウエアが搭載され、さらにCOBOLという1950年代に生まれたコンピューター言語を主に用いて設計・プログラミングされている。
経済産業省のDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートで、脱却することがDX達成のために必須と指摘された「レガシーシステム」の代名詞ともいえる。長年運用されてきたが故に複雑・巨大化し、さらに中身の構造も不明になっているものが多い。システムの軽微な改修ですらも、膨大なコストがかかり、維持費もかさむ。
メインフレームは、トラブル連発が話題になったみずほ銀行の例を見ても分かるようにメガバンクの勘定系システムなどを中心に、企業の基幹系システムでいまだに広く採用されている。だが、中には勘定系システムをパブリッククラウドに移行する例(特集『不要?生き残る?ITベンダー&人材 大淘汰』の#1『富士通・NECが「地銀勘定系システム」で淘汰される!?みずほ事変の裏で大地殻変動』参照)など、レガシーマイグレーション(レガシーシステムの刷新)を進める動きがそこかしこで起こっている。
ところが、こと生保業界については「10年以上前から、業界各社が真剣にマイグレーションに挑戦したものの、抜本的な解決には至らず結局頓挫した。海外でも似た状況で、成功している企業がない」(生保業界ITシステム部担当者)という状況なのだ。
にもかかわらず、さまざまな特殊事情から、生保の基幹システムには突然死のリスクが生まれつつある。そして、その事態はレガシーシステムの扱いに悩む多くの企業にも、起こり得る。次ページではレガシーシステム危機の真相に迫る。