1年ほど前に、ある菓子メーカーが吉田拓郎やはしだのりひこなど、1970年代に大ヒットしたフォークの名曲CDとクッキーとをセットにした商品を発売しました。しかも、この商品は、通常のスーパーなどでは販売せず、コンビニエンスストアだけに限定して販売するという手法をとりました。70年代のフォークに親しんだ団塊世代には郷愁と、いまの中学生・高校生などには新鮮さをPRし、CD付きクッキーという意外性が受けたのか、新聞や雑誌ではいろいろと取り上げられたようです。

 しかし、当初はコンビニでも目につきやすい棚の位置に置かれていたものの、残念ながら、発売数ヵ月後には多くの店舗で棚の端のほうでバーゲン品として処分されていました。

 一方、ある旅行会社が最近流行の世界遺産をテーマにしたパック旅行を企画し、説明会を開催しました。説明会は満員だったのですが、実際に旅行の申し込みをしたのはわずか1人だったため、結局その企画は実行されないことになりました。

 このように無料の説明会には参加者が多くても、実際には商品が購入されない例は、ロングステイや金融商品など高額な商品に多いようです。

 こうした苦戦の大きな原因は、中高年層に対するイメージの勝手な決めつけです。前者では、団塊世代が多感な青年期に受けた文化的な影響が、現在の消費行動にも大きく影響を与えるはず、という思い込みです。後者では年配層は金持ち、時間持ちで、商品が多少高くても買う、という商品提供側の一方的な思い込みです。

 なぜ、こうした「決めつけ商品」が後を絶たないのでしょうか。

世代の嗜好性は
時代とともに変化していく

 第1の理由は、商品開発者側に、団塊・シニア市場がきわめて多様性の強い市場であるという認識が不足していることにあります。

 団塊世代というと、ベンチャーズ世代、あるいは、ビートルズ世代と連想されることが多いようです。また、70年安保など学園紛争と絡めた全共闘世代を連想されることもあります。その世代が多感な時期に起こった事件や世相が、その世代特有の嗜好性のベースになっていると思われるためです。ところが、この世代特有の嗜好性だけに焦点を当てて商品開発をすると、前述の例のとおり苦戦することが多いのです。

 その世代が若い頃に身につけた嗜好性が生涯にわたり同じとは限りません。なぜなら、人の好みは時代とともに変化するからです。この変化は、ライフステージの変化がもたらすこともあるし、内面的な成熟がもたらすこともあります。このように世代特有の嗜好性は、特定の世代の消費行動を考えるときに、確かに重要な要因の1つではありますが、それだけが唯一の要因になるとは限りません。

 したがって、団塊世代はフォーク世代、フォークで郷愁を誘えば売れるというような安易な商品開発では苦戦するのです。