2000年代に国産SNS「mixi」で一時代を築き、業績が低迷していた13年にスマホゲーム「モンスターストライク(モンスト)」のスマッシュヒットからの超回復で驚異の急成長を果たしたミクシィ。現在もプロスポーツチームの運営や、公営競技のベッティングサービスへの参入など、精力的な新規事業開拓は続く。この快進撃の鍵を握るのが、モンストの生みの親であり、2018年から社長として経営のかじを取る木村弘毅氏だ。大企業が新規事業を成長させるために経営層は何をすべきか。大企業の新規事業開発の新しい方法論として「ビジネスディレクション」を提唱するマルチクリエーターの小沼敏郎氏が聞いた。
コミュニケーション創出企業としての規律を守る
小沼 木村さんは、新規事業に経営層はどう関わるべきだと考えていますか。
木村 「戦略」は経営がつかさどるべきものと考えています。つまり、どこにどう攻め入るかと、そのための兵たん――誰を張るか、幾ら張るかを決めるのは経営の役割です。一方、定められた領域とリソース内で戦術を繰り出していくのは現場の仕事です。ただし、これはあくまで原則で、現実には「戦略の成功のために絶対に外せない戦術」もある。その場合、経営がマイクロマネジメントまでやることもあります。
小沼 新規事業はトップダウンで始まる場合が多いのでしょうか。
木村 公営競技などスポーツ事業に関しては、私が言い出しっぺです。企業として継続的に成長するためには一定の規律が必要です。規律もなく投資するだけでは「事業家」ではなく「投資家」になってしまう。事業家としては、自社に蓄積されたリソースを使って、投資に最大限のレバレッジをかけていきたい。ですから、これまで培ってきたノウハウやケイパビリティーが生きる領域であるかどうか、既存の事業とシナジーが生まれるかどうかは特に重視しています。
小沼 ミクシィあるいは木村さんの考える「規律」とは、具体的にはどのようなものですか。
木村 「コミュニケーション創出カンパニー」として、豊かなコミュニケーションの機会を提供することです。ミクシィは、もともとSNS事業で成長した企業です。その過程で「気心の知れた仲間や家族ともっとコミュニケーションしたい」という、近い関係同士のコミュニケーションに対するニーズを強く感じてきました。SNS以外でそれを満たすサービスとして生まれたのが、スマホゲーム「モンスターストライク(モンスト)」です。
モンストは、友達や家族と共有・共感することで楽しみが加速するゲームです。これを他のエンターテインメント領域にも応用しようと考えて、スポーツベッティングに横展開しました。スポーツも1人で観戦するより、みんなで観戦した方が楽しい。さらに「賭け」という要素を加えたらもっと盛り上がるに違いないと。このように、ミクシィとしてどこに投資するかは、常に規律に関連付けられているのです。