捨て身の変顔
従来の枠に収まらない“うたのおねえさん”像

 あつこおねえさんは特に変顔には定評があって、筆者が初めてあつこおねえさん演じる『カレーライスのうた』を見た時、唐突に繰り出されたスピード感あふれる変顔に抱腹絶倒した。うたのおにいさんとしてパートナーを務める“ゆういちろうおにいさん”もキャラが立っていて相当面白いが、『カレーライスのうた』の変顔に関しては、個人的にあつこおねえさんの勝ちとしたい。
 
 幼児向け番組なので、変顔を披露するならまずは子ども受けを狙うのが正攻法である。そして子ども受けを狙うということは、自然「過激すぎず、ある程度丸く」が意識される。ましてや公共放送であるから、丸さが一層求められるところである。結果、披露される変顔は一定程度の、予定調和の範疇(はんちゅう)に収まったものになるべきである。
 
 しかし、あつこおねえさんの変顔は過激である。彼女が変顔を披露する時、守ろうとしているものが何もないことを感じさせる、捨て身で全力の勢いがそこに込められている。笑いにかける姿勢が“うたのおねえさん”というより、どちらかというとお笑い芸人寄りであり、常人や並のコメディアンに到達できる境地ではない。
 
 その変顔を、あのNHK独特の緊張感ある空間で繰り出すのであるから、この上なくシュールな面白さがある。また視聴者も「公共放送の幼児向け番組だから」という前提で見ているから、それを真っ向から裏切ってくるあつこおねえさんの変顔は衝撃以外のなにものでもなく、大人、そして子どもの心をわしづかみにしたのであった。
 
 なお、ここまであつこおねえさんの面白さについてフォーカスして書いてきたが、彼女はあくまで芸人ではなく“うたのおねえさん”であり、その役割を十二分に全うしてくれている。

ともに子育てをしてくれる存在
子どもの成長の一端を担う黄金の4人

 アイドルがグループを卒業する際のロスと、あつこおねえさん卒業のロスには、共通する部分もあるし、大きく違う部分もある。次段以降に言及するのは後者についてである。
 
 これはあつこおねえさんだけにとどまらず、『おかあさんといっしょ』に出演する他3人のおにいさん・おねえさんにも言えることなのだが、彼らの存在は全国のパパ・ママにとって子どもの成長に密接につながる。
 
 あつこおねえさんの卒業を惜しむ知人パパはこう話す。
 
「テレビの前でおにいさんやおねえさんのまねをして子どもと一緒に踊ったり、リトミックをしたりしてきた。『おかあさんといっしょ』を見るうちに子どもができるようになったこともある。おにいさん・おねえさんは『間近で子育てを手伝ってきてくれた人』のように感じられる。
 
 子どもはいつでも現在が一番かわいいが、過去を振り返るとその時々に応じた、もう取り戻すことはできないかわいさがある。あつこおねえさんの卒業は、その“取り戻せなさ”と“子どもが年を重ねて成長してきている”ことの証しのようで、ひとしお感慨深い。
 
 また育児は過酷だが、あつこおねえさんをはじめとする彼らの明るさには何度も救われてきた」
 
 まったくその通りで、パパ・ママにとっておにいさん・おねえさんは、ある時は一緒に子育てをする同志、ある時は手を差し伸べてくれる救世主、ある時は子どもに教育を施してくれる指導者…など、複数の役割を担ってくれる、心強い味方であった。