マイナンバー制度は頓挫したが
透明性が高く使い勝手のよい番号制度は必要
本連載の第5回では韓国の電子政府・電子自治体が提供している、国民に感動を与える行政サービスを紹介しました。このようなことが日本で提供できていない根本的な理由は複数ありますが、今回は中でも大きな三つの問題についてお話しします。
一つ目は、韓国には国民一人ひとりを特定できる手段があるのに対し、日本にはないことです。韓国では全ての国民に出生時に「住民登録番号」が与えられるため、住民票や運転免許証の発行など異なるシステム間で紐付けが出来、各種プッシュ型のサービスを提供できます。しかし、日本にはそれがないため、システム間で紐付けが出来ません。
今夏、日本でも「税と社会保障の一体改革」という名の下にマイナンバー制度が立案され、中身について色々と議論された末、国会に法案が提出されました。しかし、結果的には、衆議院の解散に伴い廃案になってしまいました。この個人を特定できる番号制度なしに、国連が提示している「シームレスな電子行政」を達成することはできません。
この頃、私は色々なところへ行き、韓国の番号制度を説明し、日本での番号制度の必要性を力説してきましたが、廃案になった日本政府のマイナンバー制度は筆者が期待するほどのものではありませんでした。せっかく個人番号によって紐付けでき、それらの情報を国民のために有効利用できるはずなのに、紐付けが難しく使いづらい、何のために導入するのかよくわからない番号制度になりつつあったのです。
数千億円なのか数兆円なのかわかりませんが、巨額の税金をつぎ込んで行う事業の割には目指す方向が明確でなく、不思議に思っていました。そんな中、さまざまな方から、紐付けが容易になることによる個人情報に対する漠然とした不安が大きいのだという話を聞きました。また、関係者からは、使いやすく透明性の高い番号制度にすると、国民の個人情報保護への不安が膨らみ拒否されるため、いつまでたっても法案が通らないのだという切ない話を聞きました。
結局、マイナンバー制度は廃案になりましたが、新しい政府が推進する番号制度は、幅広い分野で利活用され、国民の生活が便利になり、公務員の業務効率も上がり、電子行政に投入される国民の血税が節約できるような、そんな制度にしてほしいものです。お互いに不信感を抱きつつ、相手に文句を言われたくないばかりに、不透明な制度を作るということだけは絶対に避けてほしいのです。
二つ目は、自治体の基幹システムに関する問題です。そもそも国民に関するさまざまな情報を管理している自治体の基幹システムは、国民に最も身近なところに位置しており、「国民に感動を与える電子行政」を実現するためのもっとも重要なシステムです。