「鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」は2月16日から6月下旬まで9回にわたって行われ、3月中は各事業者のヒアリング、4月から5月にかけて論点整理を行い、6月に中間とりまとめを公表する予定だ。

 現時点で小委員会は3回開催されているが、現状整理と論点提示、各社のヒアリングを行っている段階で、具体的な検討事項はまだ見えない。一つ手がかりとなるのは、第1回の配布資料にて例示された鉄道事業者からの下記の要望5項目だ。

(1)利用者ニーズに対応した投資等に係る適切な利用者負担による回収
(2)運賃改定に係る審査手続の簡素化、迅速化
(3)総収入を増加させない範囲での運賃設定の自由度の向上(オフピーク定期券、運賃エリアの見直し)
(4)営業路線、需要動向等に応じた柔軟な運賃・料金設定の実現
(5)新型コロナウイルス感染症の影響や将来の物価上昇リスク等不測の事態に対応できる機動的・柔軟な運賃改定の実現

バリアフリー設備の整備などで
鉄道利用者が広く薄く負担か

 このうち(1)は、昨年11月に国交省が発表した、ホームドアやエレベーターの設置などバリアフリー設備の整備促進のために、運賃に整備費用を最大10円程度上乗せできる制度の創設が一例だろう。

 バリアフリー設備の直接の受益者は高齢者や障害者などの交通弱者であるが、エレベーターは大きな荷物を持ち運ぶ際に利用できるし、ホームドアの設置は全ての利用者の安全性向上につながる。また誰もが老化によって将来的に、あるいは病気やケガで突然、バリアフリー設備が必要になるかもしれない。

 そうした点をふまえれば、現在はバリアフリー設備を使わない人も含めた全ての利用者が薄く広く負担することは合理的と言えるだろう。また11月19日付の朝日新聞(電子版)はこの制度について「利用者が多い都市部で薄く広く負担してもらい、国の予算を整備が進まない地方に投入する狙いがある」と指摘している。

 現在、バリアフリー整備には国や自治体から補助金が交付されているが、都市部の駅への補助金を削減し、浮いた補助金を地方に重点的に投入したいというわけだ。つまり、健常者が交通弱者の分を負担するとともに、都市部が地方の分を負担するという二重の構造ができることになる。

 これに対する不満も想定されるが、電力業界や通信業界など公共的なサービスの世界では、全国一律のサービス提供を維持するためのユニバーサルサービス料を料金に上乗せしている事例もある。ローカル線の存続問題が取りざたされる中、バリアフリー以外でも利用者が広く薄く負担する制度が検討される可能性はあるだろう。

 またJR東日本はヒアリングの中で「通学定期券の大幅な割引や、障がい者割引などは、社会として必要なものと理解しているが、本来は事業者の負担ではなく、文教政策や社会福祉政策の一環として、社会全体で負担されるべきものではないか」と提起した。利用者だけでなく、国や自治体に対しても「受益者負担」を求めるようになるかもしれない。