激変時などに対応できる
運賃制度が必要な理由

 続いて(2)と(5)は、運賃改定に関する要望だ。このうち「審査手続の簡素化、迅速化」としてJR東日本がヒアリングで提示したのが、多様な運賃設定にそれぞれ認可が必要だという問題だ。

 同社には幹線、地方交通線、電車特定区間、山手線内の4つの種類の運賃がある。定期運賃は1カ月・3カ月・6カ月の3種類で、通勤定期と小学生、中学生、高校生、それ以外の4種類の通学定期があり、その組み合わせは24種類にもなる。

 このうち1区間でも上限運賃を上回る場合は、全体を対象とした認可申請が必要となることから、基本の幹線と割り増しの地方交通線のみを認可対称とし、他の運賃は上限運賃の範囲内と位置付けることで、より柔軟にニーズに即した運賃設定が可能になるとしている。

 もうひとつは「機動的・柔軟な運賃改定の実現」だ。新型コロナによるテレワークの拡大、外出自粛などは鉄道事業者の経営に大ダメージを与えた。大手私鉄では今年度、黒字化が見込まれる事業者も出てきたが、コロナ以前の収益率に戻ることは期待できない。そうなれば運賃を上げて利益を確保せざるを得ない。

 現行の「総括原価方式に基づく上限認可制」は、鉄道の運行に必要な経費や人件費、減価償却費、法人税など諸税の合計を「営業費」とし、これに「支払利息」と「配当金など」を加えた合計を「総括原価」とする。

 運賃・料金収入などを合計した総収入は総括原価を上回ることはできず、逆に総収入が総括原価を下回った場合は、不足分だけ値上げすることができる。この時に定められるのが上限運賃だ。これは文字通り上限を定めたものなので、事業者はこの範囲内で自由に価格を設定することができる。

 今回、この制度が「問題視」されているのは、コロナという激変に機動的に対応することが難しいからだ。というのは、運賃改定時の収支計算においては、原価と収支はともに向こう3年間の平均で計算することとされている。

 しかし、感染状況によって日々、利用者数が浮き沈みする現状においては、3年分の総収入を推定することは困難だ。とはいえコロナが落ち着いて、影響が明らかになるまで待つというのも厳しい。計算期間の短縮とともに、JR西日本からは「急激な減収局面に際して、臨時的に運賃が加算できる仕組みの検討」という提案もなされている。

 具体的な動きに連動しているのが(3)の「総収入を増加させない範囲での運賃設定の自由度の向上」、特にJR東日本とJR西日本が導入を目指すオフピーク定期券の検討である。特にJR東日本は3月1日のヒアリングで「早急にお願いしたい事項」として、通常の認可手続きによらず、特例的な認可の検討を求めたほどだ。