「Tシャツを毎日着る」のは合理的

――Tシャツを毎日着るようになったのも、「マルシェに出店するユニフォームとして作ったもの」が「30枚近く余る事態に」なったことがきっかけだったと、ご著書には書かれていました。

秋元 そうなんですよ。当時は売り上げもほとんどなかったので、Tシャツが余るんだったら、「製作費の元を取るために、毎日着なきゃ」と思ったんです。ここで、「毎日着る」ってアクションとる人が多分少ないと思うんですけど、そのときは自分の中では一番の正解だと思っていました。

「誰もやってないから、やってやろう」という感じではなく、「なんで誰も着てないんだろう。どう考えても着たほうがいい」くらいの感覚でした。自分のなかでは「合理的だ」と思ってやっていたんです。つまり夢中だったからこそ出てきた「自分らしいやり方」であり、それが結果として「別解」になったのだと思います。

――秋元さんはご自身の「優れたやり方」は何だと思いますか。

秋元 食べチョクの場合だと、私がDeNA時代にやっていたマーケティングとか、プロダクトのつくり方、立ち上げ方は「優れたやり方」を活かしています。

 食べチョクのような産直通販サービスって、過去にいろいろな人が既にやり尽くして、みんな失敗してしまっていたんです。でも、失敗の原因を探っていくと、当時の市場環境に加えて、サービス作りにも改善余地があるように思えました。

 たとえば、本当はリーンスタートアップで少しずつ開発していくべきところを、最初からフルスペックでコストをかけすぎていたり、会員登録の導線が長すぎたり。サービス立ち上げや運営の手法は必ずしも最適化されていませんでした。

 その観点では、食べチョクの立ち上げにおいて、私がDeNAでやっていたネットサービス企画の経験は、ポジティブに活かせたと思います。

――DeNAでの経験が「優れたやり方」を支えたということですか。

秋元 そうですね。IT企業としては今や当たり前の考え方ですが、なるべくコストをかけずに小さく検証することや、マーケットプレイスで在庫を抱えなくていいので、アセットライトに始められるビジネスモデルにしたところですね。

「感情と論理のバランス」が突き抜けた成果を生む

平尾 すごくいいですよね。

 秋元さんのお話しから、DeNAで鍛えた「優れたやり方」が、もともと優秀な秋元さんの「自分らしい」強みになって、それをさらに突き詰めていったことが、他人を超える結果を出したポイントになったのかなと思います。

弱点を補うよりも「自分らしさ」を突き詰めたほうがいい理由平尾 丈(ひらお・じょう)
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。

秋元 「自分らしい」やり方ですと、私の場合「感情と論理のバランス」は結構意識しています。

 農業の領域は、自分の実家が農業をしていたこもありますし、「やりたいことがない」のがずっとコンプレックスだったなかで、初めて「一生かけてやりたい」と思えた領域でもあるので、すごく「思い」があるんです。

 ただ、「感情」だけじゃなくて、DeNAで培った「論理的な思考力」でバランスをとれたのは、「別解」を生み出す要因になっていて、振り返るとすごく良かったように思います。

〈第2回へ続く〉