東レで実行されていた不正行為は、主に2種類に分けられる。一つ目は、樹脂製品をULに登録する際のものであり、二つ目は、ULが行うフォローアップ試験を切り抜けるために実行されたものだ。

 UL認証を取得するためには、開発した樹脂製品を短冊状に成形したサンプルをULに提出し、これをバーナーであぶるといった難燃性の試験を通過しなければいけない。合格すれば認証を得られ、材料や生産拠点などの情報が登録される。UL認証の取得は、顧客からの要求事項に入っていることも多いという。

 だが東レでは、このUL登録の際に、実際の生産方法とは異なる方法で作られたULが求める難燃性能を満足するサンプルを提出することで、試験をクリアしていたという。

 最初の登録で不正を行えば、その後もごまかし続けなければいけない。

 ULは、登録した品種の品質が維持されているかチェックするために、年に4回、フォローアップ試験として、既に登録されている品種の難燃性能を確認している。ULの検査員が抜き打ちで、登録品種の生産拠点を訪れ、フォローアップ試験の対象品種を指定することもあるという。

 東レでは、フォローアップ試験でも、材料に難燃剤を混ぜたり、燃えやすい成分を減量するなどして偽サンプルを作成し、ULに提出していたという。

5年前に行われた
樹脂製品の不正調査

 このような工作を行うと、UL登録時のサンプルと、実際の樹脂製品と、フォローアップ試験時に提出したサンプルの、三つの製品に乖離(かいり)が生じることになる。東レの樹脂ケミカル事業部の幹部は、90年代から製品に乖離があることに気付いていた。

 だが、本格的な調査が始まったのは2016年6月である。同じ頃、後述する東レ子会社での品質不正が発覚していただけでなく、日本の製造業全体で、品質データ改竄(かいざん)などの不正が相次いで見つかっていた。そうした内外の動きを受けて、実態把握に乗り出したと思われる。調査は17年1月まで、半年にわたって行われたという。

 不正が見つかった樹脂製品は、家電製品や自動車など、一般消費者向けの商品の部品に使用されている。本来なら、速やかに事態の公表を行うべきだっただろう。

 ところが、現実に行われたのはひそかな「火消し」だった。樹脂ケミカル事業部は、問題の樹脂製品をリスクレベルで3区分し、UL登録品種と実際の製品との乖離が大きい「ランクA」の品種について、代替品に置き換えることでつじつまを合わせることを試みた。ランクB、Cの不正はそのまま継続し、商品の製造販売は続いていた。