だが、2018年にはランクAの代替品導入を断念し、品種を廃番とするなどして、事態の収束を図っていたのである。2021年11月には、ランクBの代替品の導入や販売中止に着手。UL不正が発覚したのは、その直後だった。

ネット掲示板への書き込みにより
急ぎ公表された子会社の品質不正

 樹脂ケミカル事業部がULの不正の火消しにあたっていた頃、東レ子会社「東レハイブリッドコード」(以下、THC)で、タイヤ補強材の品質不正が発覚している。

 この事案の発覚は、2016年7月である。同年6月、THCが独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)から補助金を不正受給していたことが発覚し、東レの法務・コンプライアンス部門が、同年7月1日にTHCの社員にアンケート調査を実施。THCが製造販売するタイヤの補強材などの品質データが改竄されているという情報提供があった。

 にもかかわらず、対外公表がされたのは1年以上たった17年11月である。東レは16年7月に調査に着手し、同年10月には日覺社長に報告していた。しかし、対外公表や外部顧客への公表をしないまま、安全性調査などを進めていたという。

 だが、17年11月にネット掲示板にTHCの不正に関する書き込みがされ、記者に嗅ぎつけられる前に、急ぎ公表に踏み切った経緯があった。日覺社長は会見で、「(当初は)公表するつもりはなかった」と明言していた。

 THCの不正では、途中まで内々にコトを収めようと試みていたのである。一方、ULの不正は外部に情報が漏れることなく、今日まで情報を伏せておくことに“成功”したと言える。

再発防止のために新設した
品質保証本部の足元で不正

 問題は、THCの不正を受け、全社的に実施された再発防止策である。

 2017年12月末に公表されたTHCの報告書によると、東レは、日覺社長への報告があった2016年10月頃から、品質保証部門の格上げや、品質検査の厳格化、コンプライアンス教育などの再発防止策を実施している。