彼らは、無効だった再発防止策をどう評価していたのか。17年12月の報告書では〈いずれも、策定時点の再発防止策としては、有効かつ適切に機能することが期待でき、妥当なものである〉と太鼓判を押している。
また、一斉アンケート実施を踏まえた2018年3月の有識者委員会議事録では、結果的にULの不正が上がってこなかったアンケートを〈適切な方法でなされ、相応の時間と人員を割いて、十分な調査、分析及び検討がされている〉とお墨付きを与えていた。委員の一人は「これだけ広範な調査を行って、法令違反や製品の安全性に影響がある案件が検出されなかったことについては、敬意を表する」という賛辞まで贈っている。
再発防止策についても、〈東レグループ全体にわたる品質保証業務の実効性を確保する体制を整え、改善のための施策を着実に実行に移していることが確認できた〉と満足げなコメントを付していた。
THCの不正では、子会社の社長が責任を取ったが、長期間にわたり不正を公表しなかった日覺社長はおとがめなしだった。もし、THCの不正が明らかになった時、似たような不正がないか徹底的なチェックを行い、不正を内緒にしておく体質が改められていれば、ULの不正にも、早期に適切な対応が取れていた可能性が高い。THCの調査委員会が下した裁定は、結果的にではあるが、間違っていたのではないか。
またULの不正は、再発防止策が有効に機能したかが重要な論点になってくるだろう。だが問題の再発防止策を是認し、褒めそやしていた面々に、適切な調査や原因究明ができるのだろうか。
筆者は東レに、調査委員会メンバーの適性について取材したところ、「東レハイブリッドコードの事案では、会社が実施した調査の妥当性を有識者委員会で検証してもらったものだが、今回は調査そのものの計画・実行から有識者調査委員会に入ってもらうものであり、当時とは調査の対象が異なります。また、前回の知見を生かしていただくことで、効果的に調査・分析を深掘りいただけるものと考えています」と回答があった。
報告書は3月中にも公表される予定だ。