ざるそばを食べれば食べるほど…
経済学は欲望の考察から始まる

 たとえば、ざるそばを1枚食べる。追加してもう1枚食べる。さらにもう1枚追加していくと、追加1枚当たりの効用(欲望)は逓減していくだろう。消費量は増えていくが、限界効用は逓減する。つまり、財の価値(価格)は人間の効用で決まるというわけだ。

 18世紀以降の古典派経済学やマルクス経済学は、財の価値を労働量に置く。労働量で商品の価値が決まるとするので、これを「労働価値説」という。コストで価格が決まることになるので、「生産費説」ともいう。

 一方、ざるそばの例でわかるように、こちらの説では、価値は主観的効用で決まる。したがって効用価値説ともいう。

 このような「追加1単位当たり」という限界(マージナル)概念を経済学に導入したので、先述した3人の経済学者の登場以降を、限界革命と呼ぶ。経済学史ではこれをもって「新古典派」経済学の幕開けとしている。

 限界概念の導入によって、市場メカニズムの「需要と供給の法則」が洗練された。生産要素(土地、資本、労働力)の投入1単位当たりの生産量はだんだん減ること、つまり「限界生産力逓減の法則」などが生まれ、企業経営にも重要な指針となった。

 カール・メンガーは『国民経済学原理』第2版の『一般理論経済学』の冒頭で、次のように書いている。

「第1章 欲望の理論/あらゆる経済理論研究の出発点は、欲望を覚える人間本性である。欲望がなければ、経済も国民経済も、またそれについての科学も存在しないであろう」

 つまり、経済学は人間の本性たる欲望の考察から始まる、と書き出しているのだ。

【参考文献】八木紀一郎『オーストリアの経済思想~メンガー兄弟から20世紀へ』(ミネルヴァ書房、2004)、カール・メンガー『一般理論経済学』(1・2巻、八木紀一郎他訳、みすず書房、1982、1984)、シュムペーター『経済発展の理論』(上下、塩野谷祐一他訳、岩波文庫、1977)、J.A.シュンペーター『企業家とは何か』(清成忠男訳、東洋経済新報社、1988)

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