上海の「動態コントロール」とは

 注目を集めているのが上海の動向だ。今年に入ってから時折、一部団地などが封鎖されて全住民対象のPCR検査が行われてきたことは、すでに知られていた。だが、上海市政府はその緊張感を市内に拡散させることなくうまく対処してきたとして、「さすが国際都市の上海らしいスマートさ」と称賛する声もある。その一方で、「広報手段を操って人々の目から現実問題を遠ざけているだけ」と見る人たちもおり、彼らはそれを「滬吹(フーチュイ)」(「滬」は上海の別称。よく似た発音の「胡吹=ホラを吹く」という単語にひっかけた造語)と呼んでいる。

 だが3月初めに、その上海と往来が盛んな香港で感染者が前代未聞の勢いで増えていた頃、上海市内でもじわじわと感染者の存在が語られ始めた。元は香港から上海入りしてホテル隔離中だった人が発症し、ウイルスが何らかの形で市内に流出したといわれている。実際に新規感染者の数が3月3日に14人、4日に16人、そして5日には28人と増え続け、市内にも緊張感が広がり始めた。6日には上海市衛生健康委員会が記者会見を開き、これから市内で行われる対策について説明を行った。

 それは「動態コントロール」と呼ばれ、一部地域を封鎖して住民にPCR検査を行い、その結果によってそれぞれの対応措置を取るというものだった。その記者会見で同市衛生委員会はあえて市内全体に向けて、「みなさんの生活にご迷惑をおかけするかもしれないが」「ウイルスコントロールのためには必要なのだ」と協力を呼びかけた。もちろん、その目標は前述の「ウイルスゼロ化」だった。

 武漢で初めての大感染が起こってから2年間、中国各地でもさまざまなロックダウンが行われてきた。今回のオミクロン株の感染拡大は2年前の感染騒ぎに次ぐ大きな混乱をもたらすだろうと中国国内でもいわれている。

 またロックダウンか……と上海市民は重苦しい気持ちになりつつ、彼らがここ2年間ずっと頼りにしてきた医師の姿を探し求めた。だが、市の医療救済専門家グループの主座を務めているはずの張文宏医師の姿はその記者会見にはなかった。