農村部出身者のマナーに
不満を持つ声も

 デジタル化が進んだことに加え、若者たちの意識の変化が大きく、自分たちの国の人々のマナーが改善したことを評価している人は多い。しかし、取材してみると、そういう人ばかりではない。私が「中国人のマナーはずいぶん良くなりましたね?」と聞くと、「いえいえ、まだまだですよ」と否定する人もいた。

 広東省広州市に住むある女性は「中国人のマナーですか?多少は良くなったと思うけれど、以前と比べて劇的に良くなったかといえば、そうとは思えないですよ」と話す。

 その女性が住む大型マンションには農村から出てきた人がかなりいて、広州で働く子ども夫婦や孫の世話をしているそうだが、彼らの行動を見ていて、そのように感じるのだという。

「よくマンションの敷地内やエレベーター内で会うのですが、農村から出てきた人は、とにかく声が大きい。その声で孫を激しく怒鳴ったり、何かについて文句を言ったりします。敷地内の植え込みにゴミをポイ捨てするのもよく見かけます。マンションの上の階の窓から突然、花瓶の水を捨てる人もいますよ。その頻度は以前よりは減っているのですが、まだやる人もいます。そういうときには、『ああ、まだまだだな……』とがっかりします」

 この広州の女性と同じように感じている人は少なくない。北京や上海などの大都市で、女性が数人集まれば、農村出身の家政婦や労働者の悪口が始まる。

「私たちの間に、農村出身者に対する差別意識もあると思いますが、彼らのマナーが悪いのは教育の問題が大きいと思います。それに都市部の人とは常識もかなり違う。彼らは別に相手を不愉快にさせようと思ってやっているわけではないのですが、ゴミのポイ捨てや、地下鉄内での大声の電話など、この国の人々のマナーに関しては、まだ問題があると思います」(広州の女性)

 中国は日本と違い、単に大都市出身か、地方出身かという出身地による違いだけでなく、受けてきた教育による格差が日本人には信じられないほど大きい。そうしたことが、社会全体のマナー向上には、まだつながっていない、と考えているようだ。

 だが、少なくとも大都市に住む人々のマナーは急激に向上している。中国人の一部は否定したが、逆に言えば、都市部でマナーがいい人が猛烈な勢いで増えているからこそ、かえってマナーの悪い人が目に付くようになり、「まだまだだ……」と厳しい目で自国民を冷静に見る中国人がいるのかもしれない。

 コロナ禍が終われば、再び中国人観光客が日本にやって来る日が来るだろうが、そのとき、日本国内の人々の目に「中国人のマナー」はどのように映るだろうか。