当時の記事には「一般に昼行列車の到達時間が長くなると、夜行列車を利用する旅客が増加する傾向にある」として、「東京・博多間は約6時間で結ばれ、ちょうど東海道新幹線開業前の東京・大阪間並みとなる。したがって、東京対九州の旅客については、かなり夜行選好の傾向が強くなるものと考えられ、新幹線にも夜行列車を運転することとなった」と記されている。

 夜行新幹線は東京を21時から23時に出発し、博多に7時から9時に到着する。現在、東京駅6時発の「のぞみ1号」は博多駅に10時52分に到着する。博多に早朝に到着する夜行新幹線には一定の需要があったかもしれないが、夜間に行う保守点検の問題や、1970年代に入って浮上する騒音問題などから、夜行新幹線構想は頓挫した。

 しかし、仮に実現していたとしても現代まで生き残るのは難しかったかもしれない。航空機の初便は羽田空港6時20分発、福岡空港8時20分発であり、わざわざ夜行で行く必要性は薄れている。同様に目的地に早朝に到着するのが利点だった在来線寝台特急は、東海道新幹線の速度向上で新大阪に8時半に到着することができるようになったこともあり、次々と姿を消していった。

 東京~福岡間のシェアは開業初年をピークに低下し続けることになる。要因の一つは1970~80年代に相次いで行われた運賃・料金の値上げだ。山陽新幹線全通の翌年、1976年に一気に50%の値上げが実施されると、その後はほぼ毎年のように運賃改定が行われ、10年後の1986年には運賃はほぼ2倍になっている。

 高度成長で物価や人件費が増える中で、鉄道運賃は政策的に抑制されてきた。つまりそれまでが安すぎたのであるが、国鉄の経営が劇的に悪化する中で、いよいよ見逃すことができなくなり、先送りしていた分を一気に値上げしたのである。

 徐々に運賃を上げていったなら受け入れられたのかもしれないが、一気に1.5倍となると、国鉄離れが起こるのは当たり前だ。都市部の通勤利用者は国鉄を使わざるを得ないが、長距離移動には航空機という新たな選択肢が登場していた。