まず第一に、「キルチェーンと呼ばれる先制打撃能力を確保する。北朝鮮全域を監視できる監視・偵察能力を備える。わが国も超精密・極超音速ミサイルを備える」というものである。尹錫悦氏は「極超音速ミサイルで攻撃されれば、首都圏に到達する時間は1分以内であり、先制攻撃しか防ぐ方法は今のところない」と述べた。

 第二に、「韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)を強化する。レーザー兵器をはじめとする新たな迎撃兵器を開発し、北朝鮮の極超音速ミサイルへの防衛体制を強化する。そのためパトリオット(PAC)3を新規確保し、中距離地対空ミサイル(M-SAM)などの性能改良を早期に進める」。文在寅政権が追加配備しないとしていた、THAAD(高高度ミサイル防衛システム)の追加配備も検討されよう。

 第三に、「北朝鮮による先制攻撃が加えられる場合に稼働する大量反撃報復(KMPR)戦力を画期的に強化する。われわれの高威力精密打撃システムとともに、米韓同盟の圧倒的な戦略資産で反撃する」と述べた。

中国が強硬に反対しても
THAADの追加配備は不可避か

 尹錫悦氏は大統領選挙に先立つ1月30日、北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射を受け、フェイスブックに「THAAD追加配備」と投稿。尹錫悦氏の選対本部は論評で「THAADの迎撃範囲は200kmなのに、発射台は6基にすぎず、基地が星州(ソンジュ)にあるため、韓国全域を防御することはできない」とTHAAD追加配備の必要性に言及していた。

 しかしながら、THAAD追加配備には中国の強硬な反対という壁がある。

 在韓米軍のTHAAD配備に対して、中国は強硬に撤回を要求し、強い経済的な報復を加えてきた。

 これに対し文在寅政権は、文在寅大統領が訪中する2カ月前に、「THAADを追加配備しない」「米国のミサイル防衛システム(MD)に参加しない」「日米韓同盟はしない」と表明した。これは「三不」といわれる原則である。韓国側は、これは「政府の考えを示したもので『約束』ではない」と強調してきたが、中国側は「約束だ」としてその順守を求めている。

 尹錫悦氏は、「3不原則」について「中国との協定でも約束でもない。安保状況によって立場は変わり得る」と見直しを示唆している。北朝鮮のICBM発射によって、北朝鮮の脅威は17年当時と比べ格段に高まっていることを考えれば、見直しは避けられないだろう。

 ただ、尹錫悦氏はTHAADの追加配備に関し、在韓米軍が持ち込んで運用する代わりに、韓国軍が直接購入するという立場を表明した。直接購入する理由については、THAADのレーダーが中国の内陸まで探知して中国の対米戦力に影響を与えかねないことを中国が懸念しているためだという。