与党「共に民主党」はTHAADの追加配備は中国からの経済的報復につながり、韓国経済にとって、マイナスだと反対する。

 しかし、中国は韓国の置かれた安全保障上のリスクを無視し、逆に北朝鮮の安全保障上のリスクを強調して制裁の解除まで訴えている国である。そうした中国と一緒になって、韓国の安全を脅かすことはできない。安全保障なくして経済的繁栄はない。

 いずれにせよ、韓国は今後、経済的な中国依存度を下げることを考えていくべきであろう。それはロシアに対するドイツの苦悩と同じ苦難の道である。

北朝鮮からの防衛には
米国との同盟強化が不可欠

 尹錫悦氏は軍事面を含む日米韓の協力強化を韓国の安全保障の基軸として重視する構えである。尹錫悦氏は「南北関係を元に戻す。主従関係に転落した南北関係を正常化させる」と明言。米韓同盟を立て直し、北朝鮮の核ミサイルを無力化するため、米韓による「拡大抑止」を進める考えである。

 また、昨年11月の外国メディアとの会見では「北朝鮮が核武装を強化し挑発的なミサイル発射実験を続ける限り、韓米日による監視・偵察情報の共有と軍事協力をアップグレードするほかない」と述べている。

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 北朝鮮の核ミサイルに対する有効な防衛策は韓国だけでは講じられない。そのためには米韓同盟の強化が不可欠であり、日米韓の協力体制も重要になってくる。

 中央日報が報じるところによれば、峨山(アサン)政策研究院のコ・ミョンヒョン選任研究委員は「バイデン政権は制裁の限界を認識しているため、北朝鮮のミサイル攻撃能力遮断のための監視・偵察体制および打撃手段を強化する形で、軍事的抑止力の強化に重点を置くはず」「これは北朝鮮と中国を共に扱う方式としても効果があるとみられ、4月の米韓合同演習でこのような能力を確実に見せようとするだろう」との見方を示した。

 尹錫悦氏にとって北朝鮮の扱いは東アジアの地政学を踏まえ全面的に見直されそうである。文在寅政権の対北朝鮮政策については拙書「さまよえる韓国人」を参照願いたい。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)