無能と断じた息子に後継者候補からの除外宣告
「お前のためにロッテを悪くするわけにはいかない」
武雄と宏之は常に経営者として冷徹を貫こうとしながらも、結局は骨肉の情を捨てきれていなかった。それゆえ、そこにつけ込む昭夫に冷酷になることができず、それが事態をより悪化させてきたと、武雄や宏之に仕えたロッテの元古参幹部たちは口を揃える。しかし、そんな3人の“いびつな関係”も、この日の話し合いで終焉を迎えようとしていた。
この日、話し合いの最後に次のような会話が、親子の間で交わされた。武雄はそうなるとは思っていなかったかも知れないが、これが親子としての最後の会話になってしまった2人のやり取りは余りに悲しすぎるものだった。
武雄 昭夫、言っておくけどね、お前、会社全部、俺のものにしようとかそういうふうに考えるなよ。
昭夫 はい、わかっています。
武雄 わかるか!(軽々しく答える昭夫の態度が、武雄の怒りに油を注いだ)
昭夫 はい、わかっています。
武雄 お前にはそれだけの能力はないんだ。お前、自分でやったことなにがあるんだ。なにもできないじゃないか。お前自分でなんでもできると思ってるのか。
昭夫 そんなことはありません。
武雄 お前はロッテを全部(経営する)そういう才能を持っていない。わかっているか。
昭夫 わかっています。ええ。
武雄 お前一人のためにロッテグループ全部を悪くするわけにはいかない。
昭夫 そうですね。はい。
父親が二男の経営の才能のなさを指摘した上で事業の承継を否定し、それを息子が神妙に聞き入っている。事業の承継とはこれほど冷静かつ冷淡な距離を取り、苛烈で憎しみを表にしなければ成就しないものなのか。それとも、事業承継という利害がからむ問題においては、人はここまで言われないと、後継者として能力が足りないことや不適格であることを自身で認めることができないものなのか。
しかし二男はこれで引き下がったわけではなかった。「ならば父の首を取るのも辞さない」。兄に続いて、父も躊躇せず手に掛ける。そんなどす黒い野望と陰謀が実行に移される瞬間が1週間後に迫っていた。
<本文中敬称略>