「じゃない方芸人」から「悟り芸人」へ

 今年2月下旬に発売されたエッセイ本『敗北からの芸人論』(新潮社)が、いい。平成ノブシコブシ・徳井健太の「デイリー新潮」での連載に書き下ろしを加えたものだが、そのお笑い愛と熱と、洞察の深さにドライブされて一気読みした。

 徳井は長らく、声を張って消費カロリー高く動き回る人気者の相方・吉村の陰に隠れ、ノブコブのいわゆる「じゃない方芸人」だった。本書の中でも、お笑い力の差を巡って解散を口走るほどのけんかをし、自分をはるか後方に残して華麗に売れていく相方へ殺意を抱き続けていた日々がつづられている。

「芸人になって20年以上経つが、正直僕にはお笑いの才能がない。相方・吉村崇のような、製作陣の要望に応えて番組を盛り上げる器用さも、ない。芸歴0年目で、すでにそれに気がついていた」(本書より)

 ノブコブの「じゃない方」。ギャンブル好きで、お笑いマニアで、なんか多趣味らしいとざっくり認識されてきた徳井だが、そんな彼は近年、テレビ東京「ゴッドタン」の「腐り芸人セラピー」シリーズにインパルス・板倉俊之、ハライチ・岩井勇気と共に出演し、特別な光を放つことになる。

 売れなかったり、バラエティーになじめなかったり、心に闇を抱えてしまってお笑い業界の片隅で腐る芸人たちへ、自らもその経験者として「腐るな。自信を持て」「考えるんだよ」「辞めなければ、君なりの生き残り方が必ずあるから」と、それぞれに合わせて的確な言葉を授ける「悟り芸人」として覚醒したのだ。