人間関係、仕事、恋愛、お金……「人生なかなかうまくいかないな」とため息をつきたくなったとき、そっと寄り添うエッセイ集『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)。
今しているガマンは必要か。自尊感情が低くなっていないか。自分なりの幸せを感じられるようにするために、どのように考えて人生を生きていけばいいのか。読み進めるごとに肩の力が抜けていく。
「腐り芸人」「考察芸人」として注目を集める平成ノブシコブシ・徳井健太さんも、この本を手にとった1人。「激アツだった」と自身のTwitterで感想をつぶやいていたが、どんなところに惹かれたのか。この本の魅力と、自身が考える“絶望との向き合い方”について聞いた(全2回・後編)。(取材・構成/佐藤結衣、撮影/疋田千里)

「いつか終わりが来るから大丈夫」。平成ノブシコブシ徳井が語る独特の死生観とは?

アップデートしていく“偏見”は、生きる知恵に

徳井健太(とくい・けんた)
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期・吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。テレビ番組『ピカルの定理』などを中心に活躍し、最近では芸人やお笑い番組を愛情たっぷりに「考察」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル『徳井の考察』も開設している。著書に2022年2月に発売された話題作『敗北からの芸人論』(新潮社)がある。

――コロナ禍になって、多くの人が「こんな世界になるなんて」「こんな状況考えられない!」と混乱したり、気疲れしている方も多いと思います。徳井さんはコロナ禍になって戸惑うことはありましたか?

徳井:「こんな状況考えられない!」って言っている人に、むしろ「なんで?」と思いますね。想定できないわけじゃない。

 疫病は歴史を紐解けば100年スパンで流行しているんですよね。

 天変地異だって何度も何度も繰り返されている。あの富士山だって何百年単位で噴火しているって記録が残っているじゃないですか。

 でも、なぜか多くの人が「自分が生きている間にはそれは起こらない」って思い込んでいるように感じて、僕としてはむしろ不思議に思っていました。逆になんでそう思えるのか教えてほしいくらい。

 もちろん医学の進歩やみんなの意識で、被害の規模を小さくしていく努力はできますけど、起こる可能性そのものをなくすことなんて不可能なんだから。

「いつか終わりが来るから大丈夫」。平成ノブシコブシ徳井が語る独特の死生観とは?

――常に、過去の実績と現状を見比べて、考察をされているんですね。

徳井:そうかもしれないですね。もともとRPG(ロールプレイングゲーム)を攻略していくのが好きなんですよね。人生もRPGと同じなんじゃないかなとも思っていて。目の前のステージをクリアするために、どんなアイテムが必要なのかを考えていく。その武器の一つとして、僕は“偏見”も大事にしているんですよ。

――偏見ですか?

徳井:それもいってみれば統計学みたいなもんですよね。まー、あまり大きな声で言うと「差別だ!」みたいに炎上の種になりかねないので、こっそり心の中で蓄積しているんですけど(笑)。

 長く生きてくると「こういうタイプの人はこういう傾向にある」みたいなデータって見えてくるじゃないですか。例えば、それが「県民性」みたいな言葉になったりもすると思うんですけど。

 ひとつ例を出すと、僕の中では南国の海辺で育った人は明るくて奔放な人が多いイメージなんですね。だから、こちらもうまくテンションを合わせて話ができたらいいなって思っていて。

 でも、もちろん例外はあるのはわかっています。その例外パターンに出会ったときには「(え、なんで違うんだろう?)じゃあ兄弟構成は?」なんて、その人をより深く知るきっかけにもなるんですよ。「あ、なるほど海生まれだけど、長男だから慎重なのか」みたいな。これも偏見ですが(笑)。差別はもちろんいけないことですけど、アップデートしていく偏見は生きる知恵として、あっていいんじゃないかなって思うんです。

――たしかに、“人と付き合う上での心構えの一つ”という考え方もできますね。

徳井:そう、いわば傾向と対策です。「偏見なんて持っていません」っていうのもまた「みんな仲良く」と同じくらいきれいごとになりかねませんから。

 世の中、やっぱり自分と合う人がいる一方で、どうしても合わない人もいる。

 その現実を見ようとせずに、何でもかんでも受け入れろというのは、やっぱり難しいと思うんです。むしろ「こういう人もいる」「ああいう人もいる」と、いろんな人がいることを前提に、その対策を講じていくほうが、「こんな人だと思わなかった」って傷つく場面も減らせるんじゃないかなと。

 だから、生きていくための武器としての偏見です。

――徳井さんの中で考察されてきた偏見をまとめた本も、いつか読んでみたいです(笑)。その偏見のおかげでトラブルは回避できていると思いますか?

徳井:そうですね。トラブルになりにくいけれど、友だちにもなりにくいっていう(笑)。

 でも、たまーに、1000人に1人くらいの割合で、お互いの偏見をさらけ出し合って仲良くなれる人もいますけど。ま、それも人生のおもしろいところですよね。