会社員人生に通じる、芸人のキャリア論
ノブコブ徳井を「腐り芸人」シリーズに抜てきした「ゴッドタン」の佐久間宣行プロデューサーは、芸人と会社員のキャリア論に通底するものに早くに気付き、「あちこちオードリー」という別番組でも芸人の職業人としての葛藤を扱った番組作りを展開している。本人もまた、テレビ東京から独立し、テレビマンとしての活動に加え、ラジオパーソナリティーとして番組(『オールナイトニッポン0(ZERO)』)を持つという異色のキャリアだ。
佐久間の番組で見ることのできる、岩井の「だったらやめちまえ」や、板倉の「彼もそろそろ絶望するね」などの名フレーズも、全くもって社会人キャリア論のそれであり、さまざまに刀傷を負って戦ってきた先輩たちが放つ言葉だ。
「立ち位置=集団の中の自分の個性・切り口」や「椅子=組織のポジション」、「船=巡ってくる出世のチャンス」という、まさに会社員の出世の世界観と同じ概念で、いま誰もが大海を泳ぎ、溺れ、岸に泳ぎ着いたり打ち上げられたりしているのだと感じさせられる。
「上が詰まっているから、ポジションが空かない」「俺たちはダウンタウンさんにはなれないんだよ」「だけど、ナンバーワンを目指したことないヤツが、オンリーワンになれるわけないだろ」。30代、40代芸人たちがテレビで吐き出す苦悩は会社員のそれと同じで、熱くて切なくて、刺さって仕方ない。
勝ちしか知らない人間なんて、面白くない。敗北を味わった芸人が巻き返して大きな舞台に立つ姿に胸を熱くし、そいつが繰り出す絶妙な言葉のセンスで気持ちよく爆笑させられたい。だからもしかして、大人の私たちは「救われるために」お笑いを見続けているのかもしれない。