当初は在来線から新幹線に直通運転が可能なフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変車両)を導入し、時短効果が高い長崎~武雄温泉間はフル規格の新幹線新線、武雄温泉~新鳥栖間は在来線を走行し、新鳥栖から九州新幹線に乗入れ、博多さらには山陽新幹線に乗り入れをする計画だった。博多~武雄温泉間は在来線を走行することで、建設費を抑えつつ、乗り換え不要の直通運転を実現する計画だった。だから前述の通り、新鳥栖~武雄温泉間には新幹線の整備計画が存在しないのだ。

 だが、FGTの技術開発は難航し、採算面、安全面に課題が残るとして、与党検討委員会は2018年3月に西九州新幹線への導入を断念した。そうなると武雄温泉~長崎間は文字通り宙に浮いてしまう。こうしてひとまず「リレー形式」での開業が決定したものの、長崎県からすれば博多、新大阪方面に直通しない新幹線では意味がない。そこで県は国と共に武雄温泉~新鳥栖間にも新幹線を建設することで、所要時間をさら30分短縮し、山陽新幹線直通を実現したいとの意向だが、これに待ったをかけたのがもう一つの沿線自治体である佐賀県だ。

 佐賀県からすれば、そもそも佐賀~博多間を約37分で結ぶ現在の在来線特急で十分だ。その中で西九州新幹線の整備に同意したのは県内に新線を建設せず、在来線を活用するFGT計画という前提があり、それを断念したからといって、なし崩し的に新幹線建設に変更することは認められないと主張する。

 新幹線が建設されれば、新幹線に並行する長崎本線は「並行在来線」となりJR九州は運行から撤退する。特急列車は廃止され、運賃の値上げも避けられない。その上、多額の建設費を負担しなければならないのだから、佐賀県にとって新幹線にメリットはないとの立場だ。

 西九州新幹線の開業後、武雄温泉駅で乗り換えを強いられる利用者の中には、佐賀県の反対で直通運転が行われないと考える人もいるかもしれない。しかし少なくとも開業時点において武雄温泉駅で乗り換えが必要になった原因は、国がFGTの開発に失敗したことが要因であって、佐賀県は関係ない。

 そして武雄温泉~新鳥栖間をどうするかというのは今後の問題だ。佐賀県はFGTの性能を落とせば実用化が可能と主張しているが、いずれにしても国と長崎県は佐賀県を納得させるだけのビジョンを示さなければならない。佐賀県のスタンスは一貫しており、武雄温泉~長崎間の開業を既成事実として、佐賀県に過度な負担を強いるのはあまりに不誠実である。

 並行在来線については、北陸新幹線でも異論が出ている。2024年3月に金沢~敦賀間が開業した後、敦賀~新大阪間の着工が予定されているが、北陸新幹線は滋賀県内を通過しない。しかし、県を縦断する基幹交通である湖西線が並行在来線となり、JR西日本が撤退する可能性があるのだ。

 地域の同意があってこその新幹線建設だ。西九州新幹線の議論は、今後の国と自治体、JRの関係に大きな影響を及ぼすことになるだろう。