いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた伊藤潤一氏。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。

「株を50%引きで買える」政策が「三方良し」になる理由Photo: Adobe Stock

思考実験で「お金の流れの背景」を読み解く

投資に関連する書籍には、個別銘柄の株価の読み方などを解説するものは数多くあります。

しかし、背景でなぜ、どのようにお金が動いているのかについて触れているものは多くありません。

本来は、個別銘柄の話をするよりも前に、「なぜこのようにお金が動いているのか」「市場参加者は何を考えているのか」について思いを巡らせるトレーニングが必要だと思います。

そこで1つ、思考実験をしてみましょう。

日本の株式市場の課題の1つは、日銀がETF(上場投資信託)を購入して市場を下支えし続けた結果、多くの銘柄において日銀が間接的な「大株主」になっていることです。これは「物言わぬ株主」が増えて経営のチェック機能が低下することを意味しますから、コーポレートガバナンスの観点から望ましい状態とはいえません。

日銀がずっとETFを保有しつづけるわけにはいきませんから、いつかは売却しなければならないのですが、問題はいつどうやって売るかです。

日銀が大量に保有するETFを売却するとなれば、需給の関係から株式市場の大幅な下落は避けがたく、市場関係者はそのタイミングを注視しているわけです。

一方、日本の資産運用業界には積年の課題があります。それは、金融庁が旗を振る「貯蓄から資産形成へ」の流れがなかなか進まないことです。

家計の金融資産はおよそ2000兆円もありますが、このうち現金・預金が50%以上を占めており、株式等は約11%、投資信託は4.5%にすぎません(「資金循環統計(速報)」2021年第3四半期より)。

もし、日銀のETF売却に合わせて個人がどっと株式投資になだれ込む「Go To株式市場」のような政策があれば、2つの課題は同時に解決できそうです。

たとえば、株を50%引きで買えるようにするのはどうでしょうか。

ある日の終値で100円の株が、その日の夜に50円で買えるとなれば、買いたいという人はたくさんいるでしょう。

もちろん、何の対策もなくそんなことをすれば株価は暴落します。「50円で買った人は、翌日の株価が50円以上であれば利益を確定させるためにすぐ売るだろう」と考えるのが自然であり、理屈としては次の日は株価50円近辺でスタートすることになります。

そこで、条件をつけるのです。

株式を売却して得られた利益には「譲渡益課税」があり、現在は利益のおよそ20%です。この50%引きで購入した株式に対する譲渡益課税を、保有期間1年未満の株式については100%とすると、たとえば買った次の日に売って利益が出たとしても、その利益はすべて税金として納めることになります。この仕組みを使い、保有期間1年以上2年未満なら譲渡益課税90%、2年以上3年未満なら80%……というように、現行の20%水準になるまで引き下げていけば、保有期間を7~8年くらいまで伸ばせる可能性が高いでしょう(日本の税金が課税されない外国人投資家などの非居住者は購入できないこととします)。

ちなみに、金融庁は「貯蓄から資産形成へ」を推進していますが、株式の短期売買を推奨しているわけではなく、より安定的な中長期での投資が望ましいとしています。ですから、個人投資家の中長期の保有を促す仕組みは理にかなっているといえます。

この方法は、日銀の出口戦略の問題解決と金融庁の「貯蓄から資産形成へ」の推進の両方に資するものであり、個人にとっても株を安く買えるチャンスとなる「三方良し」の施策です。一考の価値があるのではないかと思います。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)