試合直後に喜怒哀楽が出た選手に
小宮山監督がカミナリ

 そしてカミナリも落とした。

 2戦目のゲームセットの後、速やかに整列して一礼しなければいけない場面で、4年生の一人の動きが鈍かった。チャンスに凡退したふがいなさと連敗のショックに折り合いがつかなかったのだろう、ふてくされたようにも見えた。「怒」と「哀」が表に出てしまった。

 小宮山は思わず声を荒らげ、列への参加を促した。

「こういう態度が一番いけない。チームミーティングの後で、膝詰めで説教した。早稲田の選手は、全国の高校球児の憧れにならなければ。プレーぶりはもちろん、プレー以外の立ち居振る舞いも見られているのだから」

 その4年生は、すぐに反省文を書いてきた。

「それを部屋の壁に貼って、練習に出る前に必ず読め」

 小宮山は諭すように言った。

 小宮山は自著『最強チームは掛け算でつくる』(KKベストセラーズ)でこう書いている。

「監督などの『評価する人』の基準が間違っていたら、チームは必ずといっていいほど、おかしな方向に進んでいきます。たったひとつのミスを見過ごすのか、厳しく追及するのか。怠慢プレーをした中心選手をどう扱うのか。規律を乱す行為や発言があったら、どう対処するのか。そのとき、リーダーが何を言うのか、どんな行動をとるのかによって、チームは大きく変わるでしょう」

 きちんとした規律とリーダーの正しい判断基準。これがあれば、苦しいときでもしっかりと踏ん張れる組織になる――と結論づけている。

 この本が書かれたのは2016年。早稲田大監督就任の前のことである。

(敬称略)

小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年千葉県生まれ。早大4年時には79代主将。90年ドラフト1位でロッテ入団。横浜を経て02年にはニューヨーク・メッツでプレーし、千葉ロッテに復帰して09年引退。野球評論家として活躍する一方で12年より3年間、早大特別コーチを務める。2019年、早大第20代監督就任。