反対する人を相談相手に変える
平尾 まさに人徳ですね。ユーザー軸のアイディアはどう着想するんですか?
辻 とにかくユーザーに会いに行くことはずっとやっています。昔は毎日のように会計事務所に訪問して、営業しては断られを繰り返していました。北海道まで出張に行っても一円も売れず、「辻さんの飛行機代も出ませんでしたね」とメンバーにため息をつかれたこともありました。でもそうやってユーザーに会い続けていると、確実にユーザーペインに対する解像度が上がってくるんですよね。それに僕は純粋に人と会って話すのが大好きなんです。
平尾 キラキラした経歴が並んでいて、MBA留学もされていて、もっと戦略思考の方かと思ったら、いい意味でギャップがありますよね。
辻 戦略思考は……多分、苦手です(笑)。平尾さんのほうがはるかにできる方だと思います。僕は留学中も英語が聞き取れなくて、半分以上は理解できていなかったので(笑)。完全なる感覚派ですね。
平尾 先ほどおっしゃったように、社長に反対意見がどんどん出る会社というのは、健全ですよね。いい会社ですね。
辻 バランスが大事で、周囲の意見を聞き過ぎてもダメ。なぜなら、本当に社会の課題を解決する道は、合理的説明を超えた、まだ誰も解決方法を見つけていないところにある可能性が高いので。みんなが理解できることだけをやり始めたら、その会社は普通の成長しかできない。
平尾 新しいことを始めると、既得権益から批判や攻撃も出てきますし、なかなかうまくいかないことも多いですよね。そんなときはどう考えますか?
辻 反対されるときには必ず原因があるじゃないですか。その原因に向き合うことが大事かなと。あと、「一度では成功しない」と最初から思っておいたほうがいい。僕はもともと見た目にもコンプレックスがあるし、自分自身への期待値が低いんです。だから、うまくいかなくて当然だと割り切る。そして「なぜダメだったのか」を吸収するために、人にも意見を聞きに行き、「だったら、こうしたらどうですか?」と相談する。「反対する人を相談相手に変える」という作戦、おすすめです。
平尾 それ、すごくいいですね。
辻 反対する人って、何か意見があるから反対してくれるわけじゃないですか。そこには、自分では見えていない本質的な価値や意味が隠れているはずで。それを真摯に受け止めて、事業やサービスを改善する方向に持っていければ、より良い商品・サービスになる可能性はありますよね。だから、反対する人にこそ耳を傾けて、「アドバイスしがいがあるな」と思われる経営者でありたいなと思っています。
平尾 二律相反を超える力が卓越していますね。辻さんみたいな柔らかな人格を備えたベンチャー経営者って他にいないと思います。
辻 それがコンプレックスかもしれません。もっと尖ってみたい(笑)
平尾 いやいや、今のまま唯一無二の存在でいてください。今日は勉強になる機会をありがとうございました。