年金の受給開始時期を遅らせる場合、「さかのぼって一括で受け取る」という選択肢もある。以前までその一括受給も選択肢の一つと考えていた筆者だが、このたび考えを変えた。一括受給をしたことで税務署から延滞税の支払いを求められた人がいたのだ。しかもそれを不服として裁判を起こし、敗訴していた。いったい何が起きたのかを解説し、併せて一括受給における注意点も確認してみよう。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
年金を一括受給して延滞税…
取り消し求めた人が起こした裁判とは?
この数カ月、「年金の繰り下げ受給を検討したいが、深田さんはどう思うか」と相談に訪れる人が増えている。これまでに私が書いた記事を読み、メリット、デメリットは理解した上で「自分の場合はどうなのか」を知りたいという。
数年前まではこのような切り口での相談を受けたことがなかった。「年金の繰り下げ受給」は今、それだけ多くの60代に関心事になってきているのだろう。
本来、65歳から受け取る年金の受給を遅らせると、年金額は1カ月ごとに0.7%増える。受給開始を5年繰り下げて70歳とすると、65歳時点での年金額の1.42倍、10年繰り下げて75歳にすると1.84倍となる。
あまり大きな話題になっていないが、65歳以降に受け取らなかった年金を繰り下げ受給する他に、「さかのぼって一括で受け取る」という選択肢もある。
先日相談に来た人は、とても勉強されていた。「原則通り65歳から受け取る」「70歳まで繰り下げて年金額を増やす」「70歳で5年分一括受給する」の3パターンのうち、どれが自分に合っているのか迷っていた。
その相談者は「一括受給すると、過去にさかのぼって所得税が発生し、場合によっては“延滞税がかかる”と聞いたのですが…」と質問してきた。私は「金額によっては確定申告や修正申告で納税の必要性はあるかもしれませんが、それに伴う延滞税がかかるとは聞いたことがありません。念のため調べてみましょう」と答え、その場で検索してみた。
すると、「札幌地方裁判所『修正申告に伴う延滞税課税処分取消請求事件』」という2015年の裁判の結果が出てきた。
年金を一括請求したことで延滞税の納付を求められた人(原告)が、国(札幌西税務署長)を相手取って、延滞税取り消しを求める裁判を起こしたのだ。判決は、原告の請求を棄却。つまり、延滞税は納付の義務があるということだ。
一括受給で延滞税がかかるかもしれないという話をこれまで聞いたことがなかったので(おそらく、誰も書いていない)、裁判結果のPDFを読み、本当に驚いた。どういうことなのか解説し、併せて一括受給におけるその他の注意点も見てみよう。