電力業界の頂点に君臨する東京電力ホールディングスの小早川智明社長は今期も続投することが決定し、就任から6年目に突入した。業界関係者の間では、昨年招聘した小林喜光会長と共に、「小林―小早川」のツートップによる長期政権が続くとの観測が出ている。長期政権後のポスト小早川は誰になるのか。東京電力ホールディングスの次期社長レースの行方を追う。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
柏崎刈羽原発の不祥事で
小早川社長の引責辞任もあり得た
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年という節目を迎えた2021年3月。東京電力ホールディングス(HD)では、「新生・東電」をアピールするための中期経営計画「第4次総合特別事業計画(4次総特)」が、策定作業の大詰めを迎えていた。
ところが、である。東電HDの小早川智明社長は就任後初めて、進退問題に直結するほどインパクトのある史上最悪の不祥事に直面していた。
原子力規制委員会の調査によって、柏崎刈羽原発(新潟県)の核物質防護施設のずさんなテロ対策が3年以上も放置されていたことが判明したのだ。すでに社員が他人のIDカードを使って中央制御室へ不正に入室するなどの不祥事が次々と明らかになっており、原子力規制委は東電HDに対して事実上の“レッドカード”を突き付けた。
これにより東電HDは、21年6月にも予定していた柏崎刈羽原発の再稼働を先送りせざるを得なくなった。柏崎刈羽原発の再稼働は4次総特で収益改善の柱としてそろばんをはじいていたため、4次総特そのものの大幅な修正が必要となった。
小早川社長はこのとき、柏崎刈羽原発の不祥事を受けて“更迭”されるのではといううわさが広まった。しかし、東電HDの筆頭株主で、事実上の“親会社”である政府は小早川社長を続投させた。
一方、政府は空席が続いていた東電HDの会長職について、経済同友会代表幹事などを歴任した名経営者、三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長(当時)を招聘し、経営ガバナンスの立て直しを託した。最終的には小林会長、小早川社長の下で4次総特は策定、「新生・東電」へ歩みだした。
小早川社長が今期も続投することが決まったのは、「小林―小早川体制」でまとめた4次総特を着実に実行するのが狙いだ。
ある東電HD関係者は「4次総特の完遂まで少なくともあと2年はかかる。このまま小林会長と小早川社長のツートップでいくだろう。東電は小早川社長による長期政権に突入することになる」と明かす。
そして小早川社長の続投により、「ポスト小早川」を争う次期社長レースで脱落者1人が出たのだった。
次ページ以降では、東電HDの次期社長候補の実名、東電HD社長就任に必要な知られざる条件についてつまびらかにしよう。