ビジョン刷新で組織に生まれた「大きな変化」

「留職」で越境学習を広めたNPOは、なぜ「ビジョンの刷新」という劇薬に手を出したのか?小沼大地(こぬま・だいち)
NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事
一橋大学社会学部卒・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアに赴任後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年にクロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出。2016年、ハーバード・ビジネス・レビュー未来をつくるU-40経営者20人に選出。著書に、『働く意義の見つけ方――仕事を「志事」にする流儀』。

佐宗:リブランディングでご一緒する中、クロスフィールズの性質として「代表・小沼」「留職」「伴走」という強い組織文化を持っていると感じていました。同時に「新しいことにチャレンジしたいけどちゃんとできるか不安」という葛藤を抱いている組織だとも思っていました。

 でも途中から「留職」「伴走」という言葉が消え、まったく新しい「課題へのアプローチ」や、今までの取り組みをさらに拡大する方向性に変わっていきましたよね。このような変化はどう起こっていったのでしょうか?

小沼:プロジェクト当初、団体内部からは変革に対して半信半疑な空気が流れていました。というのも「課題へのアプローチ」をはじめとする変革に向けた議論はこれまでも何度かしていて、その度に議論だけで止まってしまっていたんですよね。一方、今回は佐宗さんに「本気で課題解決したいのか?」と全体ワークショップの場で改めて問われたことで、組織の本気度というか空気が変わった印象があります。

佐宗:「直接的な社会課題解決をやりたいけれど、やっぱり自分たちにはできないんじゃないのか?」という、皆さんの内なる声が聞こえてきたんです。やるかやらないのか、はっきりさせるべきだと問いかけたら、経営陣の空気が変わりましたね。

西川:内部だけで議論していると思考が固まり、自分たちで制約をかけていたかもしれません。だから佐宗さんに「クロスフィールズって頭で議論はしていても、身体の行動が伴ってない」と言われてハッとしたのを覚えています。目指す世界を語るだけじゃなくて、行動に移さないないと、という感情になりましたね。

佐宗:この組織変化によって、経営者としての立ち位置に変化はありましたか?

小沼経営陣を3名から6名にするなど、これまで以上に権限移譲を進めています。またエンパワーやカルティベイト領域にはリーダークラスのメンバーが専任できる体制を整えました。コロナ禍で厳しい局面でしたが、そのためにかなりの人材投資もしました。

佐宗:それも大きいですよね。小沼さんが組織のすべてを背負っている感じがしていて、この荷が降りたときにクロスフィールズは変わると思っていました。一方、西川さんはこの1年で組織はどう変わったと感じていますか?

西川:メンバーが新しいビジョンを指針にしながら、意思を持って事業を進められるようになったと感じています。「この事業はビジョン実現にどうつながるのか」などの本質的な観点で一人ひとりが考え、議論するようになりました。リブランディングをリードしてきた立場として内部に浸透しなかったら失敗だと思っていたので、長い期間をかけて紡いできたビジョンや言葉に命がこもり、日常的に使われ始めていることは大きな一歩だと思っています。

 メンバーの変化と同時に、代表の小沼も変わりましたね。これまでは「強くあらねば」という感じでしたが、今はいい意味で前よりメンバーを頼っているなと。

小沼:僕自身、責任の背負い方が変わりました。これまでは意思決定する際に「組織共通の指針」がなくて、最後は僕が決めていた感覚でした。それゆえ、どうしても思い切れないという部分もありました。

 一方、今回のビジョン・ミッション刷新を経て、より自信を持って意思決定ができるようになりました。組織共通の指針が決まり、メンバーと共通認識を持てていることが大きな理由です。

佐宗:クロスフィールズとして「新しい社会課題への解」を生み出せたら、リブランディングは成功だと思っています。そもそも、今回のリブランディングは単なる事業拡大ではなく、まず自分たちで一つひとつのプロジェクトの意義を明確化することを目指しました。そうしたら1プロジェクトが生み出す価値がよりシャープに出ると思ったんです。

 だからビジョンステートメントだけでなく、メンバーが日々の業務に落とし込める方向性、いわば「クロスフィールズ流・社会課題の解決法」を言語化するプロジェクトだとも思っていました。それを糧にしながら、「サービスの提供者」ではなく、企業やNPOとともに社会課題の解決策を生み出していってほしいと感じています。