安易な行政批判やクレームがもたらすもの

 既存のやり方を否定することが改善につながるかというと、そうではない。「間違ったことをして信頼を失ってはいけない」というコンテクストに背を向けて、失敗を恐れる文化を頭ごなしに批判したり、アジャイルを訴えたりしても、平行線をたどるのは目に見えている。

 また、前回の記事では、Aさんが、スマホでも一部の業務が進められるよう準備を始めたところ、市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」とクレームが入ったというエピソードを紹介した。

 行政のDXが進まない原因は、適切な時代認識を持たない一部の住民やメディアにもある。民間企業なら無視できることも、行政では難しい。自己流の正義を振りかざす人たちは、自分たちの声で進化が止まってしまう可能性を考えたことがあるだろうか。どうか仕事の邪魔をしないであげてほしい。

 実は地方公共団体の職員数は、1994年をピークに大幅に削減されている。これには地方財政の健全化、定員や給与の適正化、民間委託の推進などが関係しているが、今後は、なり手の減少によって行政サービスの維持すら厳しくなる自治体も出てくるだろう。業務効率化は急務だ。

総務省による地方公共団体の総職員数の推移。1994年(平成6年)をピークに、2016年(平成28年)までで48万人(15%)減少した地方公共団体の総職員数の推移。1994年(平成6年)をピークに、2016年(平成28年)までで48万人(15%)減少した 出典:総務省


 事実、多くの自治体が人材確保に苦労している。「なりたい職業ランキング」では常に上位、人気の職業という印象の公務員だが、近年、定員割れや内定辞退が相次いでいる。北海道庁では、2017年から2年連続で内定辞退率が6割を超えて話題となった。コロナ禍で志願者は微増しているものの、一時的である可能性は高い。

 さらに定着率を高めるには、働く人たちの満足度を高める必要がある。昨今、一部の民間企業では、従業員満足度の向上が生産性を高めるとして、EX(Employee Experience)の改善に取り組んでいる。行政には、地域や住民に貢献したいと志して入った人が多いだろう。だが、人を幸せにする前に、役所で働く人たち自身が幸せであってほしい。ただの「やりがい搾取」ではなく、働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっているのだ。