非難されても反論しないボンボン氏は「いい人」「かわいそう」

 当選を果たしたボンボン・マルコス氏はどのような層から支持されたのだろうか。

 筆者は先月取材で首都マニラ入りし、ボンボン候補の選挙事務所を訪ねた。そのときにカンカン照りの中、キャンペーンバスにプリントされたボンボン候補の写真とセルフィーを撮っていたのがボンボン氏を支持する会計事務員のジョアンさん(仮名、32才)だった。

「BBM(ボンボン・マルコス氏の愛称)に父親のような愛情を感じるんです。 フィリピンのいいお父さんになると信じています。彼は子どもを立派に育て上げたし、良い夫でもあるので」そう話すジョアンさん、わざわざ1日休暇を取ってここまで駆けつけたそうだ。

 彼女は4月初旬には、はるばるマルコス一族の故郷・北イロコス州まで足を運び、「北のマラカニアン」(注:マラカニアン宮殿はマニラにあるフィリピン大統領府)と呼ばれる、かつてマルコス邸だった博物館を訪れた。展示されている写真を見ていたく感動したという。

 当時を知らないジョアンさんの目には、1986年に起き、マルコス大統領退陣のきっかけとなった「ピープルパワー革命」が民主主義の復活のためではなく、単にマルコス政権を止めるためのものだったと映る。「その後、フィリピンは良くなりましたか?ドゥテルテ政権になってからですよ、状況が改善したのは」とジョアンさん。

 ボンボン氏シンパからすると、独裁者の息子として批判される中で、一向に反論しないボンボン氏は「かわいそう」で、非難が集中すればするほど、むしろ彼への好感度は上がっていった。

SNSを活用、若者・中間層に広く浸透

 この国の6500万人超の有権者の中には、ジョアンさんと同様、伝統的な報道機関による報道を無視し、SNSを通じてボンボン氏の動向を追った人が数多くいる。キャンペーンがクライマックスを迎えていた4月下旬に実際に「ボンボン&サラ」ペアの集会を見に行ったときに、最前列に陣取った老若男女の支持者たちが格安スマホを片手にインスタやYouTubeでライブ配信していたのが印象的だった。

 ボンボン氏のYouTubeチャンネル登録者数は投票日までになんと227万に到達していた。定期的にアップされるVlogでは支持者の歌や踊りを息子と一緒に和やかに楽しむ様子を見せた。TwitterやTikTokでも大々的なキャンペーンが繰り広げられた。