リモートワーク普及に必要な
ハードとソフトの改善

 リモートワークの浸透とともに浮き彫りになった、さまざまな課題。これらを解決するには「企業のハードとソフトの改善が必要」と、荻島氏は解説する。

「企業のハードとは、社内で使うデジタルツールやシステムのことです。オフィス出社が前提になっている既存のシステムは、メンバーがひとつの業務にかける時間や、内容が把握できないものも多いです。その場合は、新たに一人一人のジョブの進捗状況や成果を可視化できるシステムやツールを導入することで、リモートワークでも適切なマネジメントが行いやすくなります」

 近年は、業務を可視化するツールや、バーチャルオフィスにアバターで出社するサービスなど、リモートワークの環境を整えるアイテムが続々と登場している。導入の費用はかかるものの、業務に影響するコミュニケーションコストを下げたいという企業は積極的に採用しているという。

 一方、企業のソフトとは就業規則を指す。コロナ禍では、リモートワークが可能な就業規則を制定する企業が増えた、と荻島氏。たとえば化粧品メーカー大手の資生堂は、以前から認めていた在宅勤務に加えて、2020年からコアタイムのないフレックスタイム制度を導入したという。

 ハードとソフトの改善は同時に進めるのが理想だが、リモートワークに関しては同じ規模の企業でも、経営層の姿勢が二極化しているようだ。

「当社のクライアントのうち、前向きに改革している企業は、早い段階で新システムを導入して、それに合わせて就業規則も随時変更しているんです。しかし、世相をうかがいながら後追いでリモートワークを導入した企業は、ハード・ソフトの変更も様子見状態。本格的なリモートワーク導入とは言い難い状況ですね」

 とくにリモートワークに積極的ではない企業に勤める中間管理職は「経営層と部下の“板挟み”になっている人が多い」と荻島氏は話す。

「経営層に新しいシステムの導入を相談しても『費用をかけてシステムを変える意味がわからない。コロナが落ち着いたら出社すればよいのでは?』と却下されてしまうそうです。一方、出社時よりもリモートワークで成果を上げている部下もいる。このように、リモートワークの継続を希望する部下と、オフィス出社を求める経営層に挟まれて困っている、という声も実際に耳にします」

 中間管理職層は双方の気持ちがわかるだけに、苦しい状況に追い込まれているという。

「世間的にはライフ・ワーク・バランスの重要性や、効率的な働き方が評価されるなど、仕事の価値観が変わっています。しかし、姿が見えない在宅勤務や、残業せずに定時で帰る働き方に懐疑的な経営層はまだまだ多くいます。ただ、特に若年層においてはさまざまな働き方を選択できる企業を選ぶ傾向があるので、新しい価値観にフィットした勤務形態を取り入れなければ、今後は大手企業の看板があっても、人材の採用が難しくなる可能性もありますね」