フィンランドの少人数・個性重視の教育を生み出している原動力が、教師の質の高さである。フィンランドでは教師はかなりの人気職業であり、大学院で修士号を取っていないと合格できない狭き門である。教師は教えることに集中できる環境が整えられていて、帰宅時間が早いことでも知られている。筆者が取材したときは、ある小学校教師は午後4時には帰宅していると述べている。次の授業に備えるための時間を十分に取るためだ。

 フィンランドの教育では生徒が自分で調べて考えることを重視している。冬が長いこともあるが、フィンランドは図書館が充実していて生徒の利用率が高いとされてきた。自分で調べることで本に親しむ機会が増えることは、生徒の読解力の養成にはかなり貢献していると考えられる。

 筆者もあるきっかけからフィンランドについて関心を持つようになり、日本で手に入るフィンラド式教育の本を読みあさった時期がある。そのときは「日本もフィンランドのような教育システムを作るべきかもしれない」と思ったのだが、現在ではそのような考えはなくなってしまった。

「実態」を知ってしまったからである。

フィンランドブームが
日本で起きたきっかけ

 日本でフィンランドブームを起こすきっかけとなったのが、2000年に始まったPISA(OECD生徒の学習到達度調査)で1位になったことだろう。PISAはOECD(経済協力開発機構)が実施している生徒の学習到達度調査のことなので、日本では「国際学習到達度調査」と言われることがある。この呼び名は日本オリジナルだが、PISAの内容を端的に表している。

 PISAが始まった2000年の調査では、32カ国、約26万5000人の生徒が参加して、「数学的リテラシー」「読解力」「科学的リテラシー」の3分野で実施された。その結果、数学的リテラシー1位が日本、読解力1位がフィンランド、科学的リテラシー1位が韓国となった。

 日本の順位は、読解力で8位、科学的リテラシーで2位であり、日本の教育水準の高さが世界に知られるきっかけとなった。フィンランドは総合1位となったが、数学的リテラシーと科学的リテラシーでは3位で、それほど目立つ存在ではなかった。